第156話 女王との謁見(上)
エルフ国の王都に着いた翌朝、王城からの使いが宿を訪れた。
美しい白銀色の鎧を身に着けた、若いエルフの騎士が、ラディクと何か話していた。
王女のイニスは、コルテスを伴い城へ行ったそうだから、そのことについての話かもしれない。
それを横目で見て、俺はルーク、リンダの二人と外へ出かけた。なぜなら、泊った宿が、食事を出さなかったからだ。
三人で街を歩き、一緒に朝食がとれる店を探す。ミリネたちから朝食の買だしを頼まれているから、そういった店も見つけないとね。
◇
朝食を済ませ、『木の実饅頭』を買って帰る。これはエルフ国の名物だそうで、煮込んでペースト状にした野菜と、数種類のナッツが入っている、少し甘いお菓子だ。
現地の名前もあるそうだが、食べてすぐ『木の実饅頭』と命名したほど、ナッツの香ばしさがたまらなく旨かった。
これを食べたら、ミリネのやつきっと笑顔になるぞ。
「もう、グレン君、なにニヤニヤしてるのよ!」
リンダがなぜか頬を赤らめ、俺の背中をばしばし叩く。
「ええと、まあ、勘弁してやって」
なぜかルークが俺に謝っている。
宿の近くに来た時、そのルークの足がとまった。
「ルーク、どうしたの?」
「うーん、気のせいかもしれないけど、ボクたちが宿をでてから、ほとんど動いてない人が何人かいる」
「どういうこと?」
「グレン、ルークはね、宿が見張られているんじゃないかって言いたいの」
さっきまでと違い、リンダの目は真剣だ。
「あ、ラディクさんが出てくるよ」
ルークの言うとおり、宿からラディクが出てきた。例の騎士はいないが、ルシル、マール、ゴリアテが彼の後につづく。
「お、グレン、帰ってきたの? ちょうどいいよ、これから出かけるから」
「でも、これ……」
ミリネたちに買ってきた朝食の饅頭が入った袋をラディクがのぞき込む。
「これなら日持ちするから、後で食べるといいよ。お昼はお城で食べるから、お腹を空かせておいたほうがいいしね」
ラディクがそんなことを話している間に、ミリネ、キャン、セリナが宿から出てくる。
「みんな、あれに乗って」
勇者が指さす先には、紋章がついたエメラルド色の客車が二台停まっていた。
俺たちは、二つに分かれ、その客車に乗った。
「おう! クッション最高! お尻が痛くない!」
「も、もう! 恥ずかしいこと言わないの!」
なぜかミリネに叱られてしまった。
緑の馬車は、いくつか木立を抜け、一際大きな木が立ちならぶ区画へ入っていった。
お、あれだな。
エルフの城は、一目でそれと分かる巨大な箱だった。
そして、ふと気づいた。ミリネって、女王から狙われてるんだよね。
このまま城へ行ったら、まずいんじゃないの?
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