第152話 野営地で(中)

 久しぶりにミリネと二人きりになれた俺は、彼女に尋ねたいことがたくさんあったはずなのに、なぜかそんなものは頭から抜けおちてしまった。

 丸太に並んで座る俺たちの前では、焚火がぱちぱちと音を立てている。

 夜の澄んだ空気の冷たさに、燃えたつ火の温かさは、なおさら心地よかった。


 二人で焚火を眺めているだけで言葉はいらない、そう感じていた。

 ミリネには悪いけど、ガオゥンのことも、どうでもよくなっていた。


「少し冷えてきたね」


 彼女は、そんなことを言うと、少し俺の方へにじり寄った。

 そして、なにかが肩に触れたと思ったら、それは彼女の頭だった。

 えーっと、どういうこと?

 ミリネが俺に寄りかかってる!?


「え、えと、ミリネ?」


「にゃあに?」


「!」


 えっ! 俺、耳がおかしくなったのかな? これ、ホントにあのミリネ?

 ごろにゃんしてた頃のキャンみたいだぞ……。

 あれだって、今となっては、ホントにごろにゃんしてたかどうか、分からないんだけどね。俺たちをスパイしてたわけだから、油断させるためにやってたかもしれないし。


 焚火の灯りに照らされた、ミリネの横顔がニマニマしているように見えるのは、きっと気のせいだろう。

 揺らめく炎のマジックってやつだね、ダマされちゃだめ!


「ええと、ミリネさん?」


 目を半分閉じている彼女に話しかけてみるが、なぜか反応しなかった。

 寝ていると思ったからじゃないが、目の前の三角耳が気になりだした。

 撫でたい、撫でたい、撫でたい!

 ちょっとくらいならいいよね。

 外側は薄茶色の短毛、内側は白い長毛という、その耳にそっと触れてみる。

 肩に触れているミリネの頭から、ビクビクっていう反応が伝わってくる。


 視線を降ろすと、下唇をきゅっと噛み、眉を寄せたミリネの顔があった。

 我慢できなくなって、少しだけ強く彼女の耳を人差し指と親指で挟んだ。


「にゃう!」


 二つの指を擦りあわせるように動かす。

指先から至福のモフモフ感が伝わってくる。

 あー、これ、気持ちいい。こりゃ人をダメにするわ~。


「ダ、ダメっ!」


 いきなりミリネに突きとばされ、背もたれなどないから、座っていた丸太から後ろへコロンと倒れる。


 コーン!


「痛っ!」


 なんか、凄い音した! 背中から地面に落ちた俺は、なにかに肘をぶつけ、腕全体にビリビリーって電気が走ってる。


「うーっ!」


 痛いとも言えず、背中を地面に着けた姿勢のままで肘を抱えていると、乱れた足音が近づいてくる。


「グレン! 無事かっ?」


 あれ? ルシル?

 なんでそんな真剣な顔してるの?

 肘を強く打っただけで、たぶん、ケガとかしてないんだけど。

 腰をかがめたカフネは、周囲の木立をうかがうようなそぶりで、小さな弓に矢をつがえている。

 それでも、まだ何が起こったか気づかなかった俺だが、ゴリアテが青く光る大盾を地面に突きさすように立てたことで、やっと理解した。

 これって襲撃受けたんじゃない? 

 

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