第147話 不機嫌な魔女


 食堂でこれからの計画を聞いた後、俺はルシルを呼びとめた。

 今、食堂に残っているのは、俺と彼女の二人だけだ。


「さっき襲撃があったとき、部屋にいなかったんですね?」


「ああ、カフネと私で、新しく一部屋取ったのじゃ」


「カフネさんは?」


「今ごろ、逃げたヤツを追いかけておるのじゃろう。それが盗賊職の役割じゃ」


 なんか、ルシル、やけに機嫌が悪いんだよね。


「襲撃してきたヤツに『ぶっ飛べ』ってやったんですけど、思ったより威力なかったんですよ。三人は動けなくなったみたいですけど、一人なんかそのまま逃げましたから」


「……あヤツら、対魔術の魔道具をつけておった」


 なるほど、だけど、それにしても、もろにくらったヤツが、すぐに立って逃げたのがどうしても納得できない。自分のスキルだけど、威力はかなりのものだと思うんだ。


「お主、スキルゲージじゃったか、あれを「1」にしとらなんだか?」


「ええ、そうですけど。あれ? そういえば、俺、あのとき『黒竜王のローブ』着てなかったな。スキルゲージ「1」って、あのローブ用の設定だったのに……」


「だからじゃな」


 ルシルは、ぷいっと立ちあがると、食堂から出ていった。

 やっぱり、彼女の行動、何かおかしい。

 だって、俺が『黒竜王のローブ』って言った時、突っこまなかったからね。普段の彼女ならあり得ないよ。

 いったい、何を隠してるんだろう?



 ◇


 カフネが宿に戻ってきたのは、翌日朝食の後だった。

 顔色が良くないのは、追跡していた相手をとり逃したからかもしれない。


「くそう、私が賊をとらえられてたら……」


 食堂のテーブルに顔を伏せたまま、彼女はそう言った。

 

「気にしなくていいんじゃないですか?」


 そう言うと、青い顔の彼女はばっと俺の両腕をつかんだ。


「ほ、本当にそう思う? 私のせいじゃない?」


「……ええ、そう思いますけど」


「グー坊、いい子ー!」


 カフネが俺の顔をその胸に押しつける。それほど大きくないし、革鎧ごしなのでプニプニって感じじゃないが、これも悪くない。


「グレン! なにニヤけてるの!」


「ぐえっ!」


 ミリネが俺の襟首を後ろから引っぱったので、喉がしまって変な声が出てしまった。


「もう、せっかくグー坊で癒されてたのに! ミーちゃん、さてはグー坊に気があるな?」


「カフねえ! なんてこと言うんですか!」


「ぐべっ」


 ミリネが手を離したので、俺は後頭部から床に倒れる。

 目から火花が出るって実体験、初めてしたよ。

 見上げると、ルシルが冷たい目でこちらを見ている。

 俺は思わず、ぶるっと身震いしてしまった。

 その視線はまるで、モノでも見るようなものだった。 

 

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