第135話 王都脱出(下)

 深い森を抜けると、草原の向こうに、例の長い壁が見えてきた。

 この壁、本当にぐるりと王都をとり囲んでるんだね。

 大きな門の前には、木の柵があり、横に倉庫のようなものがある。

 そこから衛士がぞろぞろ出てきたから、あれは兵舎かもしれない。


「門、閉まってるみたいですよ」


 窓から顔を出しているのは俺だけだから、念のため状況を伝えておく。

 

「ワシが行って蹴散らすぞ」


 ガオゥンが、丸太のような腕で、自分の胸をドンと叩いた。

 おいおい、大きな猫さんは、最初から戦闘モードかよ!


「ガオちゃんは、黙って座ってればいいのじゃ!」


 ガオちゃん!?

 そりゃ、ルシルの方が年上だろうけど……。


「グレン、なにを考えておる?」


 えっ!? 気づかれた?

 このエルフ、エスパーか?


「い、いえ、なにも。それより、なんか、兵士たち、武器や盾持って並んでますよ」


「無駄なことをするのう」


 いや、マールの感想はおかしいと思う。

 そんなことを考えていると、馬車が停まる。

 窓から外を見ると、大門前の柵まで、つまり、待ち構える衛士たちまで、かなり近づいている。百メートルくらいだろうか。


「みなは、そこへ座っておれ」


 そう言うと、ルシルが客車左側の扉から外へ出ていく。

 左の窓から顔を突きだし、前方を見ると、白馬の向こうに立ち、ワンドを振りあげているルシルが見えた。

 天を指したワンドの上空に、火の玉が生まれる。

 最初は小さかった火の玉が次第に大きくなり、直径三メートルくらいになった。

 まるで小さな太陽だ。

 驚いた白馬が、その場でしきりに足を動かしている。

 柵の所にいた衛士たちが、わらわらと左右へ逃げだす。

 

 ルシルがワンドを前へ振った。

 巨大な火の玉が飛んでいくと、柵をのみ込み、大門にぶち当たった。


 ドーン!


 腹の底に響く、そんな音がした。

 大門の辺りは煙が立こめ、よく見えない。

 しばらくして見えてきた大門には、大穴が開いていた。

 穴と言うより、門の下半分が消えている。

 その向こうには、緑の草原が見えた。


「はあ、すっきりしたのじゃ! たまには、こうして魔術をぶっぱなさんとな」


 ええっ!?

 ルシルさん、あなたの欲求不満を解消するために、あの門はあんなことになっちゃったの?


「グレン、何か言いたそうじゃな?」


「いえいえ、めっそうもない!」


 改めて気づいたけど、この人、危ない人だ!

 まさに『魔女』って感じ。

 ゴリアテが、柵や門の残骸を道からどけ、馬車が進みだす。

 こうして俺たちは、獣人の都を出発した。

 兵士たちからの妨害は、一切なかった。

 

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