第133話 大きな同行者


 ミリネの父であり前獣王のガオゥンが、俺たちと同行することになった。

 勇者パーティとして名高い『剣と盾』の四人だけで話をしていたが、そこで決まったらしい。

 

 ガオゥンが乗りこむと、客車内の温度が上がったように感じた。

 よりによって、彼は俺の隣に座っている。

 その上、この巨大な獣人は俺の事を根掘り葉掘り聞きたがった。

 なにを話すにしろ、スキル周辺のことには触れられないから、どうしても俺は口数が少なくなる。


「ほう、君は『三つ子山事件』の現場にいたのかね?」


「え、ええ、まあ……」


「そこには、なにが目的で行ったのかね?」


「ええと、なんだったっけなあ。友達に会いに、いや、ギルドの依頼だっけ?」


「ほう、どんな依頼だったのかね」


「……」


 こんな感じの俺を、『剣と盾』のみんなは、ニヤニヤ笑いを浮かべて眺めているだけだ。

 おい、誰か、この大きなおっさん、なんとかしてくれ!

 暑苦しくてかなわない!


 席を立とうにも、白ローブの少女が座席に寝かされているため、空きスペースがない。

 でっかい猫おじさんは、ずっと俺に話しかけてくる。 

 あー、もう! うっとうしい!


「キャン、その人のこと知ってるの?」


 俺は、ガオゥンの注意をそらそうと、彼を挟んだ座席に座っているキャンに話しかけた。


「……」


 黙っているキャンに、ラディクが話しかけた。


「キャン、ああ、この名前も本名かどうか分からないけど、君、教会のスパイでしょ?」


「……」


 えっ!? どういうこと?

 キャンが教会のスパイ!?


「カッペーリで私たちと接触するように言われてたんだね。そして、私たちの行く先を、教会へ報告していた」


「……」


「残念ながら、こちらは最初から、君が教会の手先だと分かっていたから、行先をワンニャンと偽ったんだ。まんまと引っかかってくれて助かったよ」


 ラディクの言葉に、マールが続けた。


「ほっほっほ、ワンニャンには、かなりの数、教会の者が集まったらしいからのう。昨日泊まった宿でも、情報を仲間に渡していたようだがな。出発は、明日ということにしておいたから、急に宿を発ったのを知ったお仲間は、さぞ慌てたであろうなあ、ほっほっほ」


 えーっ、みんな人が悪いよ!

 俺だけ知らなかったってこと?


「グレン、不満そうじゃな。だが、敵を騙すには味方からと言うからな、わははは!」


 全く、冗談じゃないよ!

 ルシルのヤツ、楽しそうに笑いやがって!


「キャン、本当なの?」


 向かい側の客席に座ったミリネが、真剣な表情で問いかける。

 ミリネも、キャンがスパイだって知らなかったんだね。

 キャンは、相変わらずうつむき黙ったまま、唇をかみしめている。


「先生、キャンがスパイのはずありません! だって、まだこんなに小さいのに――」


 ミリネは、まだキャンがスパイだと信じられないようだ。


「それは、小さかろう。ケットシーラ族というのは、成人でもお前の肩くらいの身長じゃからな。こやつは、お前と同じくらいの年じゃと思うぞ」


 ルシルの言葉は、救いのないものだった。


「そ、そんな……」


 ミリネは、キャンのことを妹のようにかわいがっていたから、さぞやショックも大きいだろう。

 俺? 驚いてるけど、まだピンと来ないかなあ。

 でも、キャンのやつ、ずっと俺を騙してたんだよね。

 なんかねえ……。


 


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