第132話 父娘の対面

 ガオゥンの居室は、とても狭かった。

 ベッドと粗末な棚だけが置かれた部屋は、体の大きな彼にはさぞ狭かろう。

 天井も低いので、体を伸ばして立つことさえできない。

 小さな窓には鉄格子が入っていた。

 これでは、まるで牢獄だ。


 ベッドに腰掛けた前獣王は、細長い敷物を手で示した。


「すまぬが、そこに座ってくれぬか?」


 ラディクたちが腰を下ろすと、敷物の空きスペースはなくなったから、俺は石を磨いた床に直接座った。

 うわっ、これ、お尻が冷える!


「話を聞こう」


 ガオゥンの言葉に、賢者マールが杖を振る。

 杖の先からぽわりと広がった光が、部屋を満たした。

 

「もうよいぞ。これで盗み聞きはされぬ」


 賢者の言葉を聞いた、ラディクが口を開く。


「教会の狂信者どもがミリネを狙っている」


「なんだと!?」

 

 ガオゥンの大声で、部屋中がビリビリと震えた。

 

「むす、いや、あの子は今、どこだ?」


 ルシルが、横に座るミリネのフードを外す。

 

「ミ、ミリネ、ミリネなのか?!」


 ガオゥンは、ベッドから立ちあがりかけ、頭を天井に強くぶつけた。

 おいおい、天井が崩れるんじゃないだろうな!

 ミシッていったよね、今。


 頭が痛いだろうに、ガオゥンはそんなことは気に掛けず、膝立ちの姿勢で数歩歩くと、ミリネを抱きしめた。

 驚いたミリネが目を大きく開ける。


「お、お父さん、この方は?」


 ゴリアテに話しかけたミリネの声を聞き、我に返った表情で、ガオゥンがばっと後ろへ下がった。

 その背中がベッドにぶち当たり、その足の一本がぽっきり折れた。

 傾いたベッドを見向きもせず、彼は、悲しそうな顔でミリネをじっと見ている。


「この方はね、お前にとってとても大切な方なんだ。いつか話すよ」


 ゴリアテがそんなことを言っている。

 その秘密、俺、さっきルシルから聞いちゃったんだけど、まずくない?


「ミーちゃん、もう一度ガオゥンさんに抱きしめてもらいなさい」


 ラディクの言葉で、ミリネが前に出る。

 のけぞった姿勢になっていたガオゥンが、恐る恐るといったふうに彼女を再び抱きしめた。

 閉じたその目から、滝のように涙が流れている。

 その涙で濡れたミリネのローブが、色を変えている。


 ふと横を見ると、キャンがとがめるような視線をそちらに送っていた。

 彼女の縁者らしい白ローブは、ゴリアテの足元に横たわっている。

 胸が上下しているから、生きているようだ。

 なぜかホッとしている自分に気づく。どうやら自分のスキルで人を殺さなくて済んで、安心しているらしい。自分の事なのに、そうなってみないと分からないこともあるんだね。


 勇者たちは、長い間、ガオゥンとミリネを黙って見守っていた。



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