第131話 小さなお城
襲撃された山間の道を出発した馬車は、森の中をゆっくり走り、やっとお城へ着いた。
驚いたのは、遠くから見えていた印象と違い、お城はかなり古びていた。そしてなにより、異様に小さかった。
門の入り口には、獣人の衛兵が二人いたが、彼らも装備は革鎧だけで、武器にも錆が浮いていた。
「なんだ、お
一人の衛兵が、そんなことを言ったが、その口調は、まるでごろつきのものだった。
もう一人の衛兵が、槍でルシルを小突こうとして、電撃の魔術らしいものを受け、地面でぴくぴくしている。
「通してもらうよ」
ラディクは、普段の口調でそう言うと、スタスタ門の中へ入っていく。
「ふざけるな!」
その後ろから跳びかかろうとした衛兵の背中に、マールの杖が軽く触れる。
カクンと体の力が抜けた男は、やはり地面に横たわった。
おいおい、お城の衛兵にこんなことしてもいいの?
みんながラディクに続きお城へ向かい、俺はその後を追った。
白ローブの襲撃者は、ゴリアテが肩に担いでおり、意識をとり戻したキャンは肩を落とし、そのすぐ後ろを歩いている。
キャンに白ローブとの関係を尋ねたかったが、彼女があまりにも意気消沈しているから黙っていた。
あまり大きくないお城の入り口を潜ると、やはり中も狭かった。天井が低いから、特にそう感じたのかもしれない。
背が高いゴリアテなど、頭が天井につかえないよう、首を横に曲げて歩いている。
磨かれた石の床は、あちこちがひび割れていた。
先頭のラディクは、見知った場所なのか、案内もなしに奥へ奥へと進んでいく。
途中で、村人風の格好をした、たれ耳の獣人女性が現われた。
四十くらいに見える彼女は、ラディクと親し気に言葉を交わしているから、きっと知りあいなのだろう。
やけにステップが小さな階段を何度か折りかえし登り、比較的大きな扉の前まで来た。
周囲の扉と較べて大きいと言っても、ごく普通サイズの扉だ。
たれ耳女性がそれを押す。
ギギイ
耳の奥に残る不愉快な音がして扉が開くと、かなり広い部屋が現われた。
この部屋だけは天井高が低くないから、ゴリアテの首がまっ直ぐ伸びた。
一段高くなった所にある、小さな玉座には、誰も座っておらず、その横に置かれた椅子に、大柄な獣人が座っていた。
二人の小柄な獣人が、少し後ろに控えている。
たれ耳女性が玉座の前で片膝を着く。
勇者とその仲間が、立ったままなので、俺もそれにならった。
「おお! ラディク殿! このような場所に、はるばるよう来られた!」
三角耳があるその顔は、岩の城で見た獣王に似ていた。恐らく、同じ部族だろう。
髪に白い毛が混じっているのは、おそらく高齢によるものだろう。
「ガオゥン、久しぶりだね」
「そうだな、もう十五年以上にもなるか」
大きな獣人の声は、見た目より若々しかった。
「ここの住み心地はどう?」
「狭いのを除けば快適なものだよ。それより、改めてお仲間を紹介してくれぬか?」
気のせいか、獣人の目が、フードをかぶったままのミリネへ向けられているような気がする。
「紹介なら、あなたの部屋がいいでしょう」
「……おお! ぜひ、そうしてくれ!」
なぜか、獣人の表情が、ぱあっと明るくなった。
立ちあがった彼は、やはり凄く大きかった。
そして、玉座がある壇から降りると、後ろにある扉の方へ大股で歩きだした。
ラディクが壇を回りこみ、それを追ったので、みんなもそれに続いた。
「師匠、あれ誰です?」
小柄なので、かなり本気で走っているルシルに尋ねる。
「ガオゥンか? 前の獣王じゃ。獣王グオゥンの叔父じゃな」
やっぱりね、どうりで獣王と似ていると思ったよ。
「ここだけの話、ミリネの父親じゃ。心得ておけ」
声をひそめたルシルの言葉は、驚くべきものだった。
驚いてしばらく立ちどまってしまった俺は、慌ててみんなの後を追った。
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