第128話 狙われた勇者たち(上)
ラディクが王様と親しいみたいだから、お城に泊まるかと思ったんだけど、どうやら違うらしい。
「そのようなことを申されましても、グオゥン様が、ぜひ城内にお泊めせよと――」
必死な感じで話しかける羊さんに、ラディクが珍しく不愛想に答えている。
「だからあ、グオゥン君だって、さっきボクたちがくつろげるようにって言ってたじゃない。いつも使ってる宿があるから、そっちに泊まりたいんだよ。馬車もそっちに回してもらってるしね。だから、もうお構いなく。じゃあね」
勇者は、そう言いすてると、さっさと歩きだす。
俺たちは、慌ててそれを追った。
ミリネとキャンは、まだフードつきローブを被ったままだ。
お城から出ると、岩に囲まれていた圧迫感から解放されたからか、すがすがしい気持ちになった。
宿に泊まるっていう、ラディクの判断は正解だよね。
お城へ行くのに通った時より、大通りを歩いている人がずっと減っている。
日が傾いたからかもしれない。
気がつけば、ミリネやキャンのようにローブを頭からすっぽりかぶった格好をしている人が、ちらほら見える。
何かそういった習慣があるのかもしれない。
ラディクは、大通りに面した建物に入っていく。
看板もぶらさがっていない「普通の」建物だ。
この町の建物は、どれも似た造りになっていて、下半分は石造り、上半分は木造だ。
石をくみ上げている下の部分は、どうやって造ったのか、磨きあげたような滑らかさだ。
上側の木造部分は、それに比べ、ずい分適当に作っているように見える。
ただ、ラディクに続き私たちが入った建物は、木造部分も丁寧に仕上げられていた。
扉の中は、磨かれた木目が美しい調度が並んでいて、六つほど置かれたテーブルには、薄緑色のテーブルクロスが掛けてあった。
奥には木のカウンターがあり、その向こうに黒っぽいチョッキを着た、初老の獣人が立っていた。垂れ耳だから、犬の獣人かも知れない。
「勇者様、みな様、ようこそいらっしゃいました」
うわー、この人、礼儀正しいなあ。
「また、お願いするよ」
「はい、お代は、お帰りになられるときで結構です」
どうやら、勇者の定宿というのは本当らしい。
俺たちは、華美ではないが、快適な部屋へ案内された。
◇
城を勇者たちが去った後、その一室では薄暗がりの中、数人の者が集まり、話しあいが持たれていた。
黒っぽい衣装を着た男たちの中、一人だけ白いローブを着た、曲がった角を持つ獣人が、声に苛立ちをにじませた。
「どういうことだ! なぜ王都に勇者がいる? ワンニャンに総力を集結させておるのだぞ!」
「わ、分かりません。確かに手の者からは、そのように――」
「話にならん! 次の手を考えろ! この無能めが!」
「ははっ!」
「ぬう、とにかく、あの少女に生きておられては困るのだ。一刻も早く始末せよ!」
「「「はっ、メイメイ様!」」」
薄暗い中、魔術灯の赤みがかった明かりが、白ローブの男が持つ横長の瞳に妖しい火をともしていた。
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