第125話 本当の目的地

 俺が新しく創った【中二病】スキルの呪文で、キャンの毛がごっそり抜けてしまったみたいだ。

 ルシルによると、獣人は毛が少なくなると、まるで人間が丸裸にされたような感覚に陥るらしい。

 だから、あれほど懐いていたキャンが、今はミリネの横にいる。

 ミリネは、優しく話しかけたり頭を撫でたりしているが、客車の窓にかじりつくようにして外を見ているキャンは、反応していない。


 ルシルに散々叱られた俺も、さすがに少し落ちこんでいる。懐いていたキャンに嫌われたかもしれないと思うと、よけい暗い気持ちになってしまう。

 窓から見える景色は、曇り空の下に延々と荒れ地が続いていた。


 少し前から、すれ違う旅人や馬車の姿が増えてきたから、目的地の街が近いのかもしれない。

 馬車は、気のせいか、スピードを上げているように思える。

 それまで感じなかった小さな揺れが、腰の下から伝わってくる。


「もう近いのう」


 キャンに代って隣に座ったマールが、俺と同じように窓から外を見てそう言った。


「ワンニャンってどんな街なんです?」


「ワンニャン?」


「ラディクさんが、次の目的地はそこだって言ってませんでしたか?」


「お、おお、言うておったの。しかし、、次の目的地はワンニャンではないのだよ」


 マールの声がいつもより少し大きいような気がした。


「え? 違うんですか?」


「うむ。進行方向を見てみよ」


 首を左に曲げ、馬車の進行方向を見ると、人々が行きかう道の向こうに、見渡す限り長い塀があるのが見えた。

 なんだありゃ!

 実物は見たことないけど、万里の長城っぽいぞ。

 何なんだろう?


「あれがフギャウン王国の都、グオゥンじゃ」


 ルシルが答えを言ってくれた。その口調には、なぜか勝ち誇ったような響きがあった。

 それで、俺は、一行が目的地を変えたと気づいた。


「目的地、あそこだったんですね。変更したなら教えてくれてもよかったのに」


「そんなことをすれば、驚いたお前の馬鹿づらが見られぬではないか」


 ルシル師匠、ひどい!

 もしかして、そんなことのためだけに目的地を変えたのか!?


「いや、目的地を変えるのはいいんですが――」


 そこまで言ったところで、ミリネの厳しい声がそれをさえぎる。


「グレン、大きな声を立てないの! キャンが怖がって震えてるよ!」


 窓から外を見ているキャンを見ると、確かにフルフルとシッポが震えている。

 それはどこか蛇っぽかった。

 完全にキャンに嫌われちゃったかなあ。

 

 ルシルやマールは、落ち込んだ俺が面白いのか、ニヤニヤ笑っている。

 この二人、仲は悪いのに、こういうところは気が合うのかよ!

 性格悪っ!


  





 

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