第122話 調整と黒コート

 五日間の滞在を終え、俺たちは港町カッペーリを後にした。


「アイスが遠ざかっていくのじゃ……」


 客車の窓から顔を出したルシルが、小さくなっていく街を名残おしそうに眺めていた。

 よっぽどあの店のアイスが好きなんだね。

 そんなことを考えていると、向かいの席に座るラディクが、目を細めて話かけてきた。


「グレン君、その子、すっかり君に懐いたねえ」


「せ、世話係だもんね、グレンは、キャンの」


 俺の代わりに答えたミリネが、なぜか慌てた口調になっている。

 

「みゅ~、グレンの膝、気持ちイイ」


 薄緑色のワンピースを着て膝に座る、キャンの頭を撫でてやりながら、次の目的地を尋ねる。

 

「それより次はどこへ行くんです?」


「このまま順調にいけば、フギャウン第二の都市、ワンニャンだね」


「……また、とってつけたような名前ですね」


「ほほほ、グレン坊、名前に興味があるのかな?

 そもそも、ワンニャンと言うのは、かの大戦時、グオゥンに住んでいた伯爵の名前での。

 伯爵は、その係累をたどれば、初代フギャウン帝につらなる名門でな、その彼がまだ子爵だった頃――」


「あー、マールさん、もういいです、いいです! 名前になんて興味ありません!」


「ここからが、面白いところなんだがのう……」


「だらだら続くじじいの蘊蓄うんちくを聞いてると耳が腐るわ」


「嬢ちゃんは、相変わらず口が悪いのう」


「だから私は嬢ちゃんじゃないって言ってるでしょ!」


 マールとルシルがいつものやり取りを始めたので、話は横に逸れた。

 

「あ、そうだ! ラディクさん、休憩はいつですか?」


「ん? グレン君、乗り物酔いかい?」


「いえ、服を着替えようかと思って」


 窓から吹きこむ風が、少し冷たくなっていた。


「うん、そうだね。ここからは、少し寒くなるから。もうすぐ小さな村があるから、そこで休憩しようか。みんなも、重ね着するといいよ」



  ◇


 街道沿いの小村で馬車が停まった。

 他のみんなが客車から出ていくと、俺は背中部分に魔法陣が刻まれた黒いロングコートを荷物から取りだし、バサリとそれを羽織った。 


「うん、着心地最高! 暖かい! プーキーさん、いい仕事してる!」


 カッペーリを発つ前、マールに頼みこんで、例の入り江までもう一度連れていってもらった。

 そこで実験した結果、【スキルゲージ】を調節すれば、この服を着ても大丈夫ということが分かった。


 補助スキル:スキルゲージ 

0 1………………………50……………………100


 スキルゲージは、今、この状態で、「1」が点滅している。

 マールによると、【中二病スキル】で表示される数字は、「1」は「1」を表しているが、「2」は「2」を表していないのではないか、ということだった。

 俺の予想は、「2」は「2乗」、「3」は「3乗」ではないのかってこと。

 つまり、基礎数値みたいなものがあって、それが「2乗」、「3乗」になるんじゃないかってことなんだ。

 そう考えると、山が消えた件も納得できるしね。 


 とにかく、【スキルゲージ】を「1」にしてからコートを着た状態での試し撃ちは、かなり威力が低かった。せいぜい海面がバシャッっと水柱を上げる程度。海が割れないから、きっと大丈夫だよね。 


 ただ、【スキルゲージ】の数値を変える時は、マールの許可をもらうよう言われた。それには俺も納得しているからいいんだけどね。

 

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