第117話 港町カッペーリ(中)

 上手い食事を腹いっぱい食べ、店の外へ出ると、通りすがりの獣人たちが、俺の方を凄い目つきでにらみつけてきた。

 やばい!

 フード被るの忘れてたよ!


「あっ、『魔女』!?」

「おい、あれ、『魔女』ルシルじゃねえか?」

「あの大盾、『鋼』のゴリアテさんじゃない?」

「もしかして、『剣と盾』が来てんのか!?」


 俺の後ろから、ルシルとゴリアテが姿を現すと、獣人たちはなぜかこそこそした感じでこちらをうかがっている。

 獣人たちから、こちらに向けられていた、きつい目つきは完全に消えていた。


「港に旨い菓子を食わせる店がある。グレン、せっかくだ、師匠の私にご馳走してくれ」


 少し膨らんだお腹をローブの上から撫でながら、ルシルがこちらを見る。


「えっ? その『師匠』って、なんでしたっけ?」


「馬鹿め、もう忘れおったか! お前は私の弟子じゃろうが!」


「あっ、そんな設定でしたね。忘れてました」


「かーっ! 設定などであるものか! お前は私の正式な弟子じゃ!」


「ええ~?」


「なんじゃ、その不服そうな顔は! 名誉に思え、名誉に!」


 そんな下らないことをルシルとやり合いながら歩きだすと、獣人たちが俺を見る目が、何か怖いものでも見るようなものに変わっていた。


「あ、あの男の子、『魔女』の弟子なんですって!」

「おいおい、ホントかよ……」

「怖えなあ……」


 にらみつけられるのは嫌だけど、怖がられたくもないんだけど……。



 ◇


 食堂があった地区から港へは、坂を下ることになる。

 獣人たちでにぎわう道を、港へ降りていく。

 ここまで来ると、潮風の香りがはっきり感じられた。

 途中、二人の若者が、俺たちに突っかかってこようとしたが、周囲の獣人によって、取りおさえられた。


「ルシル校長、いや、ルシル先生、『剣と盾』の皆さんは、この街で有名なんですか?」


「うーん、どうなんじゃろうな? 昔、この街の『コラーゲン』とかいうならず者どもが、ちょっかいを掛けてきてな。プチンと踏みつぶしてやったんじゃよ」


「嬢ちゃん、ありゃ、『クラーケン』だぜ。それから、踏みつぶしたんじゃなくて、あんたが灰にしたんだろうが」


 ミリネと手を繋いだゴリアテが突っこんだ内容は、かなり物騒なものだった。


「あのような塵芥ちりあくた、名前を覚える必要もないわ! 灰は灰にじゃよ」


 おー、「灰は灰に」か。なかなか心躍るセリフだね。

 呪文に使えるかな?


「ああ、あそこじゃ、あそこじゃ!」


 俺たちは、いつの間にか坂を降りきり、様々な形の帆船が繋ぎとめてある港に到着していた。

 ルシルは黒ローブをなびかせ、ちょこちょこ目的の店へ走っていく。

 店の前には、長蛇の列ができていた。


 うわー、ケモミミの行列、迫力だねー!

 行列に並んだ人々は、どうぞどうぞという感じで、なぜか俺たちに順番を譲り、待たずにお菓子を買えた。

 驚いたことに、それはアイスクリームだった!

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