第2部 港町と猫娘
第116話 港町カッペーリ(上)
ただの人ごみではない。ケモミミ、ケモシッポの人ごみだ。
「フオー!」
「これ、変な声を出すでない!」
道を埋めつくす獣人に感極まった声が出てしまう。そんな俺を、前を歩く賢者マールが、振りかえりもせずおし殺した声でたしなめた。
獣人至上主義が国是のここフギャウン王国では、獣人でないというだけで、ひどい目に遭うこともあるそうだ。
だから、俺はマールから渡された、茶色のフード付きローブで顔を隠している。
ローブは獣人用のものだから、フードの上に耳が入る袋が二つ付いている。
道行く獣人は、熊っぽいの、ネコっぽいの、イヌっぽいの様々だが、それをじっと見ている余裕がない。油断していると、意外に素早いマールの、小さな背中を見失いそうになるからだ。
やがてマールは、薄汚れた感じの店へと入った。
明るい通りからいきなり暗い店内に入ったので、目が慣れるのに少し時間が掛かる。
「ひいっ!」
思わずそんな声が出てしまう。
食欲をそそる匂いが立ちこめる店内には、六つのテーブルがあり、そこに座る獣人たちがギロリと光る眼で、こちらをにらんでいる。
マールは気にせず、一番奥のテーブルまで行き、椅子に座った。
どこかのテーブルからは、何かがジュージュー焼ける音が聞こえてくる。
こそこそ話す獣人の声は、何を言っているのか聞き取れなかった。
「お前はなぜそこにつっ立っておるのじゃ? 早う座らんか」
奥のテーブルから、ルシルのそんな声がする。なぜかその声も小声だ。
テーブルには、『剣と盾』の四人とミリネが着いていて、すでに食事を始めていた。
皿の料理が半分ほど無くなっている。
「グレン、あんた声が大きいんだから、気をつけるのよ」
ミリネがやはり小声でそう言った。
「どういうこと?」
「おい、言われたばかりだろうが、小声で話せ。獣人は耳がいいから、普通の声で話すとやかましいと思われるんだ」
「ゴリアテ、あんたもうるさいわよ」
ゴリアテをルシルがたしなめる。
席に座った俺は、目の前にある皿の料理に手を出しながら、小声で言った。
「みなさん、フードを被らなくていいんですか?」
この人たち、ミリネ以外は人間かエルフだからね。
「ああ、私たちは、このままで構わないんだ。君も、私たちといるときは、フードを被らなくていいよ」
掲げたグラス越しにウインクしながら、勇者ラディクがそう言った。
「ところで、マール、グレンの能力はどうだったのかな?」
「ほっほっほ、さすがの勇者様もびっくりの能力であったよ。長生きはするもんだのう。よいものが見られた」
「じじい、早く教えなさいよ!」
「嬢ちゃん、このような場所でスキルの話はできぬであろう? 宿に着いてからだの」
「ふん、もったいぶるんじゃないわよ! あんたじゃなくてグレンの能力なんだからね。それに私は嬢ちゃんじゃない!」
賢者と魔女は、いつも通りだね。
「グレン君、この街、カッペーリって言うんだけど、ここに来たのは、人に会うためなんだ。俺とマールは、その人に会ってくるから、その間、みんなで散歩でも楽しむといいよ」
「わ、分かりました」
マールは、スズメの涙ほど食事を食べただけで、もうお腹が膨れたのか、杖を手に立ち上がった。
「グレン坊、みなの言うことをよく聞くのだよ」
ラディクとマールの二人が、店を出ていく。
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