第115話 賢者の推理、グレンの推理

「『待て』と言うたであろうが! お主は何を考えておる!」


 コツン


「痛っ!」


 マールが、また杖で俺の頭を叩いた。


「そこへ直れ!」


 マールが先ほどまで座っていた丸石に再び座ると、俺は彼の前に正座した。

 砂が濡れているから、ズボンがびしょびしょになってしまう。 


「ごめんなさい」


「もう少しで、二人とも死ぬところじゃったぞ!」


「ご、ごめんなさい」


「まあいいわい。グレン坊も、ワザとやったのではないからのう」


「すみません」


「お主、魔力が無かったの?」


「はい、そう言われました」


「確かにお主には魔力が無い。しかし、先ほどスキルを使うとき、膨大なエネルギーがお主の体に宿っておった」


「エネルギー?」


「そうだのう。ワシが知っておるので一番近いのは怨念のエネルギーだが、お主のエネルギーからは、悪い感じは受けなんだ」


「どういうことでしょう?」


「そうじゃの、いくつもの『願い』のようなものがより合わさったものとでも言えばよいかの」


 もしかして……。


「そのエネルギーって、この世界のものですか?」


「ふむ、心当たりがあるようだな。恐らく、あのエネルギーはこの世界のものではない」


 やっぱり。


「ええと、もし異世界があるとして、世界によっては、魔術がない世界、魔術の元になるエネルギーがない世界があると思いますか?」


「それは、無い」


 マールは、断定する口調でそう言った。


「なぜです?」


「世界を世界たらしめておる根源の力を借りるのが魔術なのだよ。だから、魔術のエネルギーが無いということは、その世界を成り立たせるエネルギーが無いということになる」


「もし、魔術が使えない世界があるとすると、どうなります?」


「そこに住む者が、魔術の使い方を知らぬだけだということになる」


「……魔術を使っても、何も起こらないってことですか?」


「正確には、その者が、『魔術』だと思っているものを使っても何も起こらないということだの」


「その時、エネルギーはどうなります?」


「ふむ、それは魔術研究者が『エネルギー消失』や『マナ消失』と呼ぶものでな。まだ研究されはじめたばかりの最先端なのだよ」


 日本に、いや、地球世界にどれほど中二病に掛った人がいるか想像もつかないが、仮に、一億の人間が思いを込めた呪文を唱えた時、そのエネルギーはどこへ行くのだろうか?

 

 今まで、スキルの力をつかっても、疲れたりすることはなかった。これは普通の魔術師が、魔術を放つと疲労を感じるのとまるで違っている。

 もし、【中二病スキル】のエネルギーが、自分の中からでなく外からもたらされたものだとしたら……。


 マールとの会話は、俺が自分のスキルについて、深く考えるきっかけとなった。



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