第114話 試し撃ち(下)

 俺は、人気ひとけのない入り江に立ち、沖へ右手を伸ばした。

 マールは、少し離れた所にある、波に洗われ丸くなった岩にちょこんと座り、こちらを見ている。

 目が白い眉毛に隠れているから、居眠りしてるのかもしれないけどね。

 口ヒゲの辺りに魔法陣が浮かんでるから、たぶん起きてるんだろう。

 俺は息を整えると、二つしかない呪文の一つを唱えた。


「ぶっ飛べ!」


 ゴウッ!


 海面が白く切りさかれる。それは五十メートルほど沖まで続いていた。

 

 なんかおかしいぞ。

 これ、威力上がってないか?

 まさか、この前見たステータス、正しいなんてことないよね。

 ……ナイナイ、レベル131とかあり得ないから。

 気を取りなおして、もう一度試してみるかな。

 今度は、ステータスを出したままにしておき、右腕に左手を添える。


************************************************

スキル:【言語理解】、【言語伝達】

ユニークスキル:【中二病(w)】(レベル7)

  派生スキル:【ファッション(虚)】(レベル3)

  派生スキル:【ポーズ(痛)】(レベル2)*100

************************************************

 あれ?

 以前は、確か「*10」だったのに「*100」になってる。

 なんでだろう?

 姿勢は前と変えてないんだけど。

 もしかして、【中二病(w)】のスキル自体がレベルアップしたから、それが派生スキルにも影響してるのかな?

 とにかく、思いついたことをやってみるか。


 右腕から左手を放すと、もう一度最初の姿勢を取る。

 ただ、いつもは開いている右手を今回は握ってみた。


******************

  派生スキル:ポーズ(レベル2)*30

******************


「ぶっ飛べ!」


 ゴゥ


 おっ、明らかにさっきより、海の切れ方が少ない。

 よし、次は……。


 人差し指と親指を伸ばし、右手で銃の形を作る。


「ぶっ飛べ!」


 ゴゴウッ


 スゲー! 海より少し上を狙ってるのに、百メートルくらい白い線がついてないか? 


******************

 派生スキル:ポーズ(レベル2)*500

******************


 おー、ポーズに「*500」がついてる!


 次は、人差し指と中指を伸ばして……。


******************

 派生スキル:ポーズ(レベル2)*1000

******************


 うわっ、「*1000」になってるじゃん!


「ま、待て!」


 マールが叫んでいるが、もう遅い。


「ぶっ飛べ!」


 キュゴゴゴゥッ


 何かが潰れるような音がすると、遥か向こうまで海が大きく割れた。


「波が来るぞ!」


 いつの間にか、マールが俺と海の間に立っている。

 彼は、沖の方へ向くと呪文を唱えた。


「全てを守る堅き盾よ、水を友とし、ここにそびえたて!」


 初めて聞くマールの呪文は、俺たち二人を覆う水のドームを作った。

 

 ズシーン


 そんな音がすると、水の防壁を通して届いていた陽光が急に暗くなる。

 少し時間がたつと、再び、明るくなったが、また音がして暗くなる。

 それが何回か繰りかえされた。


 ドームが消えると、周囲の景色が見えてくる。

 海がざわざわと波立ってるほか、特に変わりはないように見える。

 後ろを振り向くと……。


「えっ!?」


 さっきまで白かった砂浜が、土色になっている。

 どうやら、入江の一番奥まで海水が押しよせたようだ。 

 砂浜に打ちあげられ、ピチピチ跳ねている魚を手ですくい海へと返す。


 コツン


「痛っ!」


 振りかえると、杖を振りあげたマールがいた。




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