第113話 試し撃ち(上)

 コレンティン帝国の国境際で『夜明けの光』を撃退した俺たちは、獣人の国、フギャウン王国へと入った。

 草原か森どちらか、そんな光景に飽きてきた頃、前方に白い街が見えてきた。そして、その向こうに見えるのは――。


「海だ!」


 青い海原から、海風が潮の匂いを運んでくる。


「えっ、海? どこどこ?」


 すぐ横に、外を眺めるミリネの顔がある。

 海からの風に目を細めるミリネは、三角耳が震えている。

 きっと海を見て感動しているのだろう。


 白い街が近づいてくるにつれ、ワクワクが高まる。

 だって、あそこにはケモミミ、ケモシッポがたくさんいるんだよ。

 そんなことを考えていると、馬車が急に停まった。

 客車の左側にある扉を開いて、賢者マールが外へ出る。

 

「グレン、お主もここで降りるのじゃ」


 見かけだけ少女である緑髪のエルフ、ルシルが当然のようにそんなことを言った。

 

「え? なんで俺だけ?」


「つべこべ言わずに降りろ!」


 なぜか機嫌が悪いルシルの言葉に従い、俺も客車を降りる。

 俺の足が地面に着くと、すぐに馬車は出発してしまった。

 白い客車が遠ざかっていく。

 絵になる光景だ。

 白ヒゲのじいさんと俺だけが取り残されていなかったなら。


「ほっほっほ、何か不満があるようだのう。ミリネちゃんと別れるのが辛かったかの?」


「い、いえ、別に」


 この老人、妙に鋭いから油断できない。


「なんで俺たちだけ、ここで降りるんです?」


「ほっほ、それは、着いてくればわかるよ」


 マールは、小柄な彼自身の身長ほどもある、白い木の杖で地面をトンと突いた。

 舗装されていない、白っぽい道に、マールと俺を囲むように魔法陣が現われた。

 薄青い魔法陣が、強く光を放つ。

 眩しさに目を閉じた俺が、やっと目を開くと、前に海が広がっていた。


「えっ!?」 


「ほっほっほ、瞬間移動は初めてかの? まあ、ワシ以外に使える者がおらんでのう」


 それって凄い魔術ってこと?

 

 驚きから覚め、周囲を見回すと、ここが小さな入り江だと気づく。

 背後には黒っぽい崖があり、左右は崖と同じ黒っぽい岩の連なりが、海へ向かって突きだしていた。

 

「ここ、どこです?」


「さっき馬車から降りた所から、そう離れてはおらんよ。あそこに洞窟があっての」 

 

 マールが伸ばした杖の先は、黒い崖の奥を指していたが、そこには何も見えなかった。

 

「それが、ワシらの隠れ家の一つなのだよ」


 何もないのに隠れ家があると思ってるなんて、このおじいさん、少しアレじゃないのか?


「どうしてこんな場所に来たんです?」 


「グレン坊、お主、自分のスキルについて知りたくはないかの?」


「……それは、もちろん知りたいですが――」


「ワシが手助けしてやろう」


「手助け?」


「お主のスキルについて調べてやろうと言うておるのだよ」


「調べる?」


「うむ。ここなら人に見られぬだろう? 思う存分、スキルを使うてみるがよい」


 えーっと、こんな頼りないおじいさんに、スキルのことバラしちゃって大丈夫かな?



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