第112話 実力と助力


 どういう仕組みになっているのか、ほとんど揺れない客車の、開けはなした窓からは、御者を務めるゴリアテの鼻歌と、小鳥の声が聞こえてくる。

 窓の向こうに見える風景は、草原と森が交互に入れかわった。

 冒険者ギルドに置いてきたピュウの事が気になる。俺は旅に連れていくつもりだったのだけど、ルシルから強く止められた。

 彼女はピュウのことが気に入ってるみたいだから、ちゃんとした理由があるのだろう。

 

 陽が高くなると一度馬車が停まり、全員が外に出て簡単な昼食をとる。

 そして、再び出発した馬車は、空がオレンジに染まりかける頃、草原を流れる川に差しかかった。

 それまで一度も揺れなかった馬車から、ガタリと振動が伝わってくる。

 

「やっぱりここで来たぜ!」


 御者台のゴリアテが、大声でそう言うのが聞こえてきた。

 客車の側面に二つずつ並んだ窓の一つから顔を出し進行方向を見ると、川に架かる橋の上に、白ローブがズラリと並んでいる。

 そして、右側に視線を移すと、草原の草陰に隠れていた白ローブが一斉に立ちあがった。


「包囲!」


 白ローブの一人からそんな声が上がる。

 しかし、『剣と盾』は、それを待ってはいなかった。


「二人とも、ここを動くでないぞ!」


 ルシルの声に後ろを振り返ると、客車の中はミリネと俺を残し、誰もいなくなっていた。

 立ち上がって、ミリネが座っている側の窓から外を見ると、すでにゴリアテが青く光る大盾を構えていた。

 白ローブの何人かが杖を構えようとしたが、槍のようなものが地面から生え、そいつらを貫いた。

 別の窓から見ると、そこから見える白ローブ全員が、喉を押さえてもがいている。

  

「秘薬を飲め!」


 声がした方を見ようと窓からのぞくと、数人の白ローブが、ローブの内側から紫色のポーションを出し、それを飲もうとしていた。

 そいつらに向かって、緑の草原にスッと線が引かれた。

 その線が白ローブを通り過ぎると、彼らはパタパタと倒れた。

 その向こうには、黄金の剣を手に、こちらを振りむく勇者ラディクがいた。

 

「ラフィにい、カッコイイ!」


 気がつくと、すぐ横で同じように窓から外を見ている、ミリネの顔があった。

 三角耳が、嬉しそうにピクピクしている。

 

「ミリネ、大丈夫か?」


 客車横の扉が開いて、ゴリアテが心配顔で入ってくる。

 

「大丈夫だよ、お父さん」


「そうか。よかった」


「さっき、『やっぱりここで』って言ってましたが、どうしてヤツらの襲撃が分かったんです?」    


「ほっほっほ、それはな、あの川がコレンティン帝国とフギャウン王国との国境だからだの」


 いつの間にかちょこんとベンチに座っていた、賢者マールがそう答えた。

 

「フギャウン王国は、教会を認めてはおらんのじゃ」


 客車に入ってきたルシルが、黒いローブをさばきながら説明をつけ加えた。

 

「自国内で教会が戦闘など起こせば、フギャウン国内で細々と布教している教会をとり潰す理由になるからね」

 

 そう言いながら、最後に帰ってきたラディクは、その手に何本かのポーションを抱えていた。

 魔道具屋前で白ローブたちと戦ったとき、ヤツらが使った『秘薬』とかいう紫色のポーションだ。


「ポーションは、間違いなく全部回収したかい?」


 ラディクの言葉に、ルシルとマールが頷いた。

 ゴリアテが客車から御者席に移り、馬車が動き出すと、ラディクが窓の外へ向け大声で言った。


「助力感謝する」


 窓から外をのぞくと、通り過ぎる橋のたもとに、黒装束が何人か並んでいる。

 その内、小柄な一人が、軽く頭を下げた。


「あれ、誰です?」


 俺の質問にマールが答えた。


「ほっほ、あれは『黒狼コクロウ』だのう」


「えっ!? 俺、あいつらに追いかけられてるんじゃないんですか?」


「グレン君、マールがコレンティン国王陛下と話をしてね。彼らは私たちの味方につくことになったんだ」


「「ええっ!?」」


 ラディクの言葉には、俺だけでなくミリネも驚いたようだ。

 

「国王は、喜んで賛成してくれたよ」


 勇者は、いたずらっ子のようなウインクを見せた。

 どうやら『剣と盾』については、俺の知らないことがまだまだあるみたいだ。



 



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