第107話 秘薬の正体

「そういえば、白いローブを着た人たち、どこへ行ったんでしょう?」


 急に姿を消した白ローブたちのことを尋ねてみる。


「……グレン君、こっちへ来てごらん」


 ラディクに連れられ、白ローブが立っていた辺りまで来る。

 石畳に黒いススのようなものが落ちているだけで、他には何もない。

 よく見ると、黒いススは、俺たちがさっきいた場所を中心に、半円を描くように散らばっていた。


「ま、まさか……」


「そう、このススが、さっきまで私たちを攻撃していた魔術師の成れの果てだよ」


「ど、どういうことでしょう?」


「ヤツら、薬を飲んだ後、急に強くなっただろう?」


「そういえば、そうでした」


「あれは、ヤツらが『秘薬』と呼んでいるものでね。魔術師の体と命を代償に、一時的に能力を高めるものなんだ」


「……」


「恐ろしいヤツらさ。命令さえあれば、自分の命すら簡単に捨てるのだから」


「な、なんなんですか、アイツら?」


「……そうだね、君は知っておくべきだろう。教会に仕える裏の組織、『夜明けの光』だよ」  


 えっ?!

 すでに『黒狼コクロウ』とかいう国の秘密組織に追われてるのに、さらに教会の秘密組織!?

 もう、勘弁してほしい!


「『黒狼』の方はワシが抑えたが、『夜明けの光』は、どうしようもないのう」


 賢者マールが、俺の心を読みとったかのようにそう言った。


「潮時かなあ」


 そんな言葉を洩らした勇者が、金色の剣を鞘にしまう。


「とにかく、一度みんなで話しあえばよいじゃろ」


 ルシルが場をまとめるように、そんなことを言った。



 ◇


 それから、俺たちは、ラディクを先頭にギルドへ向かった。

 ギルドに着くと、例のいけすかない貴族のギルマスが出てきて、『剣と盾』一行にやたらとぺこぺこしていた。

 ミリネと俺は、フード付きのローブを羽織り、顔を隠していた。

 ギルド職員はもちろん、待合室に何人かいた冒険者たちも、明らかに怪しい風体の俺たち二人に声を掛けてこなかった。

 いつもは賑やかな待合室が、やけに静かなのが印象的だった。


 プーキーを除き、ギルド二階にあるベッド付きの豪華な部屋に入った、『剣と盾』の四人とミリネ、そして俺は、いかにも高価そうな長方形の白いテーブルを囲んで座った。

 やけに広い部屋と、飾りたてられた内装をキョロキョロ眺めていると、何もないテーブルの上に、いきなりお茶のセットが現われた。

 シンプルな白いカップが五つしかなかったので、ルシルに言われ、部屋の隅に置かれた戸棚から、自分のカップを一つ取ってきた。


 顔が白ヒゲに埋もれそうな賢者マールが、滑らかな手つきでお茶をいれる。

 なぜか、ポットには出来立ての熱いお茶が入っていた。

 

「とりあえずの再会を祝して」


 ラディクがカップを目のところまで上げる。 

 マール、ルシル、ゴリアテが同じ格好をした。


「さて、ミリネの事はゴリアテとルシル、グレン君の事はルシルと本人から聞けばいいのかな?」


 ラディクがくつろいだ格好でそう言った。

 この勇者、イケメンで強いだけでなく、頭も切れそうだ。なんかムカつく。

 

「まず、ミリネのことだが……」


 ゴリアテが話しはじめた。







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