第106話 剣と盾

 突然現れた大男、ゴリアテを目にして、ルシルが文句を言った。


「私は『嬢ちゃん』じゃない! それに来るのが遅い!」


わりわりい、コイツのメンテに時間とられちまってな!」


 革鎧を着たゴリアテが、ハンマーのような手で白銀色の大盾を叩くと、ゴンという音がした。


「ミリネ、十秒でいい。魔力を全部遣い切るつもりで、対魔術結界を張るのじゃ!」


「分かりました!」


 ルシルの声に、ミリネが呪文を詠唱しはじめる。彼女は、鮮やかな青色をした小型魔法杖ワンドを右手にしている。

 ルシルが張った結界の外側に、もう一枚の結界が現れた。


「先生!」


 ミリネの合図を聞き、ルシルが何かの呪文を唱える。

 ルシルの結界が消えたかわりに、ゴリアテが構えた銀色の大盾が青く光った。


「よーし、来いっ!」


 ゴリアテが叫ぶと、驚いたことに、飛び交っていた魔術が彼の持つ盾へ集中する。


 ゴゴゴゴーン!


 そんな音がして、大盾が魔術を受けとめる。

 両足を開き、踏ん張ったゴリアテの背中が、その筋肉で盛りあがる。


「わはははは! どうした、どうした! もっと気合い入れて撃ってこいよ!」


 あー、完全に脳筋のセリフですよ、それ!


「ラディク君、今よ! ヤツらを蹴散らして!」


 そうルシルが言ったとたん、魔術による攻撃がピタリと止んだ。

 さっきまで、魔術が炸裂する音で耳が痛いほどだったのに、急に辺りは静かになっていた。


「ほほほほほ、遅れてすまんのう」


 のんきとしか言いようがない声が、石畳に響く。

 ゴリアテが大盾を降ろしたことで、その人物が姿を現した。

 

「仙人?」


 思わずそう言った俺の言葉に、和服っぽい茶色の服を着た、白い眉、白い髭の老人が答えた。


「ほほほ、仙人ではないがの。ワシゃ、マールという名でな。ひと様からは、『賢者』などという大げさな名で呼ばれておるよ」


「マ、マール様!」


 プーキーが胸の前で両手を合わせ、目からハートを出している。

 いくらなんでも、君のストライクゾーン広すぎだろう!


「ミリネ、元気そうだな!」

「お父さん!」


 ミリネは、ゴリラのようなゴリアテの胸に顔を埋めている。


「坊主、お前もついでに元気そうだな?」


 はいはい、俺はどうせ「ついで」ですよ!


「ルシル校長、この方たちは?」


 彼らが誰かは、予想出来ていたが、念のため尋ねてみる。


「ああ、パーティ『剣と盾』じゃよ。それから、私を校長と呼ぶのはやめろ。そうじゃな、『ルシル様』とでも呼べ」


「はいはい」


「ルシル、この子が例の少年かい?」


 勇者は金髪を手で払うしぐさまで決まってるね。


「そうだよ、ラディク君。この子がグレン君だよー」


 ルシルは、どう見ても二重人格だよね。


「ほほほ、黒髪ではあるが、ごく普通の男の子に見えるがのう」


 賢者マールがアゴ髭を撫でながら、じっとこちらを見る。


「見かけはそうだけど、コイツはチューニャビーじゃからな」


 あー、また、ルシルが要らないことを! 


「「「チューニャビー!!」」」


 伝説のパーティへの人物紹介がこれって、ちょっとひどくない?

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