第102話 新しい隠れ家
廃墟で一晩明かしたミリネと俺は、ルシル校長によって救いだされた。
俺たちはフード付きローブを被り、裏通りの細い道をくねくね曲がった後、ようやく一軒の家までたどり着いた。
裏口の戸をルシルが叩くと、少ししてそれが開き、驚いた顔のエルフが顔を出した。
「ルシル?」
ポニーテールにした緑の髪に長い耳、顔つきがルシルとそっくりのそのエルフは、間違いなくプーキーだった。
どうやら、ここは、『プーキーの魔道具屋』の裏口らしい。
道理で長い時間歩いたわけだ。廃墟からここまでは、かなり距離があるからね。
ルシルは、プーキーを押しのけるように道具屋の裏戸を潜ると、ミリネと俺に手招きした。
「ちょっとルシル……」
話しかけるプーキーが、まるでそこにいないかのように、ルシルは返事もしない。
彼女は、廊下にまであふれた道具類の隙間を進み、階段を昇っていく。
俺たちも薄暗い階段を通り彼女を追いかけた。
二階には扉が四つあったが、ルシルはためらうことなく、その一つの扉を開け中へ入った。
部屋は八畳ほどで、綺麗に片づけられており、ベッドが一つと木の棚、そして大きな木箱が置いてあった。
腰に着けた魔法のポーチから小さな木の椅子を取りだしたルシルは、それを俺に勧めた。
ルシルとミリネはベッドに腰掛ける。
「ちょ、ちょっと、どういうことよ!」
血相を変えたプーキーが部屋に入ってくる。
「どういうこともなにも、ここは私の家だが?」
「くっ、でも、今は私がお店を――」
何か言いかけたプーキーを無視し、ルシルは俺たちに話しかけた。
「さて、落ち着いたところで、何があったか話してもらえるかな?」
興奮した様子のプーキーは、ニ三度足を踏み鳴らすと、部屋から出ていった。
ミリネが、昨日あった襲撃の様子を詳しく彼女に伝えた。
「なるほどなあ。家に押しいったのは、恐らく『
「えっ? それって、湖の漁師小屋で校長が言ってた、国の秘密組織ですか!?」
思わず尋ねる。
「そうだ。危険なヤツらだぞ。ミリネが結界を張っていなければ、お前たち、今頃どうなっていたかのう」
怖っ!
怖すぎる!
「だけど、逃げた俺たちがあの廃墟にいるって、どうして分かったんです?」
「あの子のお陰じゃよ」
ルシルが木窓を指さす。
木窓が、コツコツ鳴っている。
彼女がベッドから立ち上がり、窓を開けると、黒い影が飛びこんできた。
「ぴゅう」
「ピュウ! 無事だったんだね!」
左肩にとまったピュウを撫でてやる。
ベッドに座る前に、ルシルもピュウの頭を撫でたが、彼は目を細めてじっとしていた。
あれ? ピュウ、いつの間にか校長に懐いてる?
「賢い子だな。さすが、……だけはある」
初めて見る優しい表情で、ルシルがピュウを見ている。
「校長、ピュウのお陰って言ってましたが……」
「ああ、お前たちがいた廃墟まで案内してくれたのは、そのフクロウだ」
「「ええっ!?」」
ミリネと俺の声が重なる。
いくらピュウが賢いからって、そんなことができるのだろうか?
「私たちがここまで来る間も、追跡者がいないか、上空から見張っていたみたいだぞ」
いや、いくらなんでも、そこまでは賢くないでしょう。
「先生、私たち、これからどうすればいいですか?」
ミリネが真剣な顔で口をはさむ。
「そうだな。いずれここも『黒狼』に嗅ぎつけられるだろうが、時間稼ぎさえできれば十分だからな」
「時間稼ぎですか?」
「ああ、ミリネ、そうだよ。すでに準備はしてある。楽しみにしておけ」
「「?」」
ルシルの言っていることが理解できず、首を傾げるミリネと俺だった。
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