第80話 自信作
プーキーから話を聞いた俺は、何と言っていいか分からなかった。
ええと、俺のためだけに、わざわざ店を移転させたってこと?
「ええと、俺、たまたま、今日ここを通り掛かったんですけど……」
「水と火と土と風の大精霊に感謝するわ! 運命は私たちを見捨てていなかった!」
大精霊って、いっぱいいるな!
それに、私たち? もしかして、俺もその「運命」ってのに巻きこまれてる?
「さあ、少年! 我が愛し子たちを、とくとご覧あれ!」
どこからか、ビロードっぽい真紅の布が貼られた箱を取りだすと、プーキーは鼻息荒く、それを机の上に置いた。
机に隙間なく置かれていた、怪しげな素材がぽろぽろこぼれ落ちる。
この人、やばい!
百メートルほど引きかけた俺は、しかし、箱が開けられると、そこに並ぶ品物に見入ってしまった。
これは……銃か?
黒光りする金属で作られたそれは、どこか違うが、それでも、地球世界の銃に似ていた。
「ふふふ、最初にそれに注目したわね! それは、我が最高傑作、新たな魔法杖よ!かねがね、一般的な魔法杖のデザインがダサいって思ってたのよね。これなら、カッコイイでしょ!」
言われて銃口を覗くと……穴が無い。
なるほど、そういうことね。
「これ、いくらです?」
「君なら特価で金貨百枚よ!」
ええっと、銅貨一枚が、地球の感覚だと百円くらいだから、銀貨一枚が一万円でしょ、金貨一枚が百万円で……一億!
これって一億円もするの!?
「残念ですが、俺にはまだ早いようです」
「そ、そう? 自信作なんだけどなあ……。じゃあ、こっちのはどう?」
彼女が次に指さしたのは、小型のペンナイフのようなものだった。
「これは何です?」
「よくぞ聞いてくれたわ! 我が最高傑作、聖剣(のようなもの)よ」
「……」
今、小さな声で「のようなもの」って、確かに言ったよね。
だいたい、聖剣なんて見たことないけど、もっと大きいものじゃない?
「私、かねがね、一般的な魔法杖のデザインが(以下略)」
「で、それはいくらです?」
「金貨五十枚ね」
「……」
さっきより安いが、それでも五千万円か。
それに、これ、デザインが違うだけで、ただの魔法杖だよね。
「ええと、実を言うと、俺、魔力が無いんです」
「ガガーン!!」
いや、それ、実際に口にした人、初めて見たよ。
「な、なんで魔力も無いのに、魔道具屋に?」
顔近い!
それにその顔が、まっ青だし!
「そこは、それ、なんというか――」
「もしかして、君もチューニャ――」
「違う! 違いますよ! 置いてある商品のデザインが好きなだけです!」
「使えないのに? ……やっぱり、チューニャ――」
「だからあ、なにか他のモノはないんですか?」
「うーん、他のモノといわれてもねえ……あっ、そうだ!」
彼女は、得体の知れないものが積みかさねてある棚から、何かを引っぱりだした。
「近接戦闘なら、これはどうかしら?」
彼女が手にしているのは、黒い布の塊だった。
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