第4部 プーキーとの再会
第79話 魔道具店再び
一流冒険者パーティ『剣と杖』と一緒に取りくんだ、フォレストボア討伐の仕事も終わり、俺は再び一人で仕事を請けおうことになった。
一人で出来る仕事は限られており、
今日は、小包の配達だ。
駅馬車の駅で受けとった小包を抱え、郊外にある一軒家まで届ける。
戸口に出てきた男性は、それを受けとると、それをぐっと抱きしめ涙を流した。
きっと故郷の両親から届いたものなのだろう。
物一つ届けるにも、一々手間と時間がかかるこの世界では、荷物を受けとるというそれだけのことが、俺がかつて生きていた世界とは、かけ離れているようだ。
帰り道、温かい気持ちになってゆっくり歩いていた。
あれ?
なんか見覚えのある看板が?
郊外の、小さな店が肩を寄せ合うように並んでいるその一角に、以前クレタンで見たことがある看板があった。
しかし、さすがに店ごと移動させる魔術なんてないだろうから、似ているだけで、別の店かもしれない。
まさか、チェーン展開してないよね、あんな店。
俺は、恐る恐る店の扉を開けた。
◇
薄暗い店内に入ったけど、誰も出てこない。
得体の知れない、干物っぽい何かがぶら下がる、狭い通路を奥へ向かう。
古びた机の上に屈みこみ、虫眼鏡を覗きこんでいるのは、クレタンの街で会ったエルフの魔道具商プーキーだった。
妹のルシル校長とそっくりなその顔は、見間違いようがない。
「あのー……」
「……」
「あのー、ちょっといいですか?」
「……あっ! あんたは、あの時の!」
俺に気づいたプーキーが、その手からぽろりと虫眼鏡をとり落とした。
ガタガタ机を鳴らし、こちらに出てきた彼女は、俺の手を突然ぎゅっと握った。
「ずっと会いたかった!」
えっ?
なんで?
一度会ったきりの彼女からそんなことを言われても、戸惑うだけだ。
「ええっと、どういうことでしょうか?」
キラキラした目で俺を見つめるプーキーは、その理由を話してくれた。
◇
錬金術師であるプーキーは、十年前、遠い親類から迷宮都市クレタンの古い魔道具屋を譲りわたされた。
元々、店が持ちたかった彼女は、張りきって商売に精を出した。
迷宮都市なので、彼女が作るポーション類は、飛ぶように売れた。
やがて、仕事の合間に錬金術の研究を始めた彼女は、次第にそれにのめり込んでいった。
彼女が作る、
ポーションすら売らなくなった彼女の店には、チューニャビーと言われる、ごく少数の愛好家だけが訪れるようになった。
そんなある日、一人の少年が店を訪れたのだ。
黒い瞳、黒髪のその少年は、目を輝かせて彼女の自信作を買っていった。
丹精込めて作りあげた品を喜んで買ってもらえる。
その感動は、なにものにも代えがたかった。
彼女は、再び少年が店に来てくれるのを心待ちにした。
しかし、いくら待っても、彼が店を訪れることはなかった。
絶望に囚われていた彼女を救ったのは、姉のルシルだった。
めったに店を訪れない彼女は、世間話の一つとして、黒髪の少年について話した。
えっ!
あの子、王都に行っちゃったの!
その日のうちに、彼女はクレタンの店をたたみ、王都に出店すると決めた。
そこで、あの少年が驚くような、凄い魔道具を造るのだ!
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