第78話 賞賛

「ええっ!? 二十七匹のフォレストボア!? うち三体は、特殊個体ですか!」


 早朝から『剣と盾』のみんなと一緒にギルドを訪れ、討伐の報告をすると、受付のレミィさんが大声を上げた。

 ここが個室でなければ、冒険者たちが騒ぎだしたにちがいない。

 

「しかし、いくらあなた方でも、フォレストボアの特殊個体三体には対処できなかったのでは?」


「いや、そうでもなかったぞ」


 コウチャンは足を組んだ姿勢でソファーにもたれ、そう言った。


「コイツが魔術一発でなんとかしちまったのさ!」


 座っていた山賊トカレが立ち上がると、一人だけ立っていた俺の頭をぐりぐり撫でた。


「えっ!? 魔術……確か、グレン君は魔力がありませんでしたよね?」


 レミィさんが形のよい眉を寄せている。


「魔力が無い? 確かにグレンが魔術で倒した。それは、まちがいないよ」


 メイリーンさんは、飲みかけたお茶のカップを口から離すと、そう言った。


「い、いったい、どういうことでしょう?」


「レミィ、驚くのは分かるが、こりゃグレンのスキルに関することだろ?」


 スキルに関する事は詮索しない、そういう決まりだからね。


「ま、まあ、いいでしょう。コウチャンさん、それでフォレストボアの討伐は完了ですか?」


「いや、昨日は暗くなったから、いったん引きあげた。

 この時間に来たのは、素材の回収に人手を借りたいからだ」


「フォレストボアを倒したのは――」


「日没前だ。至急、手の空いた冒険者を『静かの森』へ派遣してくれ」


「分かりました! 報酬の受けわたしは、素材の査定が終わってからでいいですか?」


「俺たちも、これから森へ行って、フォレストボアが残ってないか調査する。報酬の方は、その確認が終わった時点で依頼分だけ先に貰っておこうか」


「分かりました。調査の方、ひき続きお願いします」


 話が終わり、俺たちは待合所へ席を移した。


 ◇


「へえ、そのルーキーが、一人でフォレストボアの特殊個体をねえ。そうは見えねえなあ」


「がははは、だろだろ? こんなことがあるから冒険者は辞められねえ!」


 俺たちは、テーブルを囲んで座ったが、山賊トカレが隣のごついおじさんと、そんな話を始めた。


「その子、後衛だとは思ってたけど、魔術師だったのかい? それにしちゃあ、杖も持ってないねえ」


 妖艶な顔に、黒いローブを押しあげる大きな胸のお姉さんが、話しかけてくる。

 

「ふふふ、グレン君はちょっと特別なんですよ」


 丸顔の魔術師メイリーンさんが、意味ありげな微笑みを浮かべる。


「おい、兄ちゃん、とにかく特殊個体を三匹も倒したんだ。お祝いといこうぜ!」

「そうね、乾杯しよう!」

「おーい、ここに酒持ってきてくれ!」


 なんか、朝から凄い雰囲気だな。

 そのとき、レミィさんが待合室に入ってきた。


「みなさーん! ちょっと乾杯は待ってください。特別な依頼が発生しました。銅ランク以上の冒険者は、これからすぐ、『静かの森』へ向かってください」


「レミィちゃん、どんな依頼なの?」


 ごついおじさん冒険者が、猫なで声で尋ねている。


「『剣と杖』が倒した、フォレストボアの回収です。手伝ってくださったパーティには、報酬の他にお肉のおすそ分けもありますよ。そうですよね、コウチャンさん」


「仕方ねえなあ。それでいいぜ。だが、一人二パントまでにしといてくれ」


「「「おおー!」」」


 冒険者たち、めちゃくちゃ気合いが入ってるね。

 

「さあ、聞きましたかー! 報酬に加え、一人二パントの猪肉ですよ! 遅れると、分け前はなしですよー!」


 レミィさん、これ、冒険者煽ってないか? 


「こうしちゃいられねえ! 俺たちも急ぐぞ!」

「ああ、こんな美味しい依頼、めったにねえからな!」

「肉、肉ー!」


 冒険者が、がやがやとギルドから出ていく。

 フォレストボアの肉って、そんなに旨いのかな?




 

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