第76話 フォレストボア討伐(5)
横並びに襲いかかってきた、三匹のフォレストボアを前にしても、『剣と盾』の四人は、実に落ちついたものだった。
中央のボアにメイリーンの魔術が命中し、そこからぽわんと光の輪が広がる。
フォレストボアの動きが急に遅くなった。
左端のボアの頭を矢が射抜く。
中央のヤツは、コウチャンが剣で袈裟懸けする。
右端は、ヒモのようなものが前足に絡みつき、頭から地面に突っこんだ。
「油断するな! まだ終わってないぞ!」
ぼうっと見ていた俺の意識が、コウチャンの声ではっきりする。
フォレストボアとの戦いは、長い間続いた。
◇
「はあ、はあ、いってえ、何匹いたんだ、この群れはよ!」
戦闘が終わり、地面に座りこんだ山賊トカレがぼやいている。
フォレストボアは、倒れては現れを繰りかえし、十回近く押しよせた。
これも近くに座っている、魔術師メイリーン、弓師ラズナの二人は、青い顔をしている。
倒れたボアにとどめを刺していたコウチャンが戻ってくる。
彼は立ちどまると、腰のポーチからポーションのビンを取りだし、それを口に咥えた。
ずっと前衛でフォレストボアを凌いだ彼は、革鎧のあちこちに傷が残っていた。
戦闘は四人任せで何もしなかった俺は、水で湿らせた布を配って回った。
「おっ、こりゃあいいな! お前、気が利くなあ!」
山賊トカレが濡れた布で顔を拭きながら、そんなことを言う。
気が利くなんて、生まれて初めて言われたんじゃないかな。
「キモチイー!」
「生き返るわねえ」
日本のおしぼり文化は ラズナとメイリーンにも気に入ってもらえたようだ。
「お前、冒険者より商売の方が向いてんじゃないか?」
最後におしぼりを渡されたコウチャンが、白い歯を見せてそう言った。
「さあ、素材を回収したら、撤収するぞ」
「リーダー、もうちょっだけ待ってよ。もう、ヘトヘトなの」
ランクが一つ低いせいか、後衛なのにラズナが一番へばっているようだ。
「グズグズはできんぞ。もう日が暮れる。暗くなる前に、森を抜けなきゃならんからな」
「ええー……げっ!」
ラズナの不満は、途中から驚きに、いや、絶望に変わった。
その訳は――。
「また、来たぞ! ……おい、なんだ、ありゃ!」
山賊トカレの声と共に、夕方の気配が漂いはじめた森の中から、巨大な体躯が姿を現す。
それは、テラコスからクレタンへ行く途中、ミリネと俺が襲われたのと同じくらい大きなフォレストボアだった。
「なっ、なんなのあれはっ!」
ラズナは、声が恐怖でひきつっている。
「特殊個体ね」
杖を手に立ち上がったメイリーンは、落ちついている。
「くそう、一匹じゃねえのか!」
トカレが、うめくように言う。
巨大なフォレストボアは、三頭もいた。
「こりゃ、撤退だな」
コウチャンは、冷静な声でそう言った。
「あのう、いいですか?」
俺はある提案をすることにした。
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