第75話 フォレストボア討伐(4)

 食事が終わると、俺たちは森の奥へとわけ入った。

 小型の魔獣がちらほら姿を現す。

 それを全て無視して、パーティは進んでいった。


 陽が傾きかけた頃、先頭を歩く山賊トカレがそれを見つけた。


「グレン、ちょっと来てみろ」


 彼が指さす木は、俺の腰くらいの高さのところに傷があり、白い木肌が見えていた。


「いいか、フォレストボアは、ヤツラが牙でつける傷の位置で大きさが分かるんだ。

 こいつはまだ若いヤツだな」


 なるほど、冒険者として学ぶことがたくさんありそうだ。


「そういやあ、お前、フォレストボア倒したって言ってたが、どのくらいの大きさだったんだ」


「俺が倒したかどうか、はっきりしないんですが、俺の背より遥かに大きかったですよ」


「おいおい、そりゃ、成体だな。よく生きてたもんだ。フォレストボアの成体は、俺たちでも一対一で戦うとしんどいぞ。パーティでなら、なんということはないがな」


 へえ、あのでっかい猪を楽勝で倒せるのか。さすが一流パーティだな。


「あっ、ここにも印があるよ!」


 弓師のラズナが、新しい傷を見つける。


「おい、こりゃあ、さっきのヤツとは違う個体だぜ」


 山賊トカレは、木につけられた傷から、そんなことまで分かるらしい。


「トカレ、こっちに来てくれ!」


 コウチャンの声に緊張が感じられる。

 彼は大木のずいぶん高い位置につけられた傷を見ていた。


「こりゃ、やばいぞ。このでかさだと、特殊個体だな。しかも、群れを率いてる」


 トカレの声にも、いつものからかうような口調が無かった。


「グルルルル」


 そんな音が聞こえてくる。


「近いぞ! 戦闘準備!」


 コウチャンの、抑えているがハッキリした声でみんなが動く。

 あっというまに前衛後衛の隊形ができる。さすがだね。

 俺も慌てて、指定されたコウチャンの左後ろに立った。


「来たぞ!」


 前方で木の根元にしゃがみ、何かしていた山賊トカレが、そう叫びなら駆けてくる。

 木立の間から、一頭のフォレストボアが姿を現した。


 猪に似たその魔獣は、しかし、俺が予想していたよりはるかに小さかった。

 体高が一メートルそこそこだろう。

 あれなら、地球の猪と変わらない。

 なにより、かつて目にしたフォレストボアの威圧感が無かった。

 見方によっては、ちょっとカワイイ感じだね。


 跳ねるように近づいてきたフォレストボアは、なぜか突然その前足を折り、地面に突っ込んだ。

 トカレが何か仕掛けておいたのだろう。


 倒れたソイツに矢が飛んでいく。

 それは見事にフォレストボアの眉間を射抜いた。

 凄い!


「よっし!」


 背後から、気合いの入った弓師ラズナの声がする。

 今のは会心の一撃だったのだろう。


「次が来るぞ!」


 コウチャンの声と同時に、先ほどと同サイズのフォレストボアと、やや小さなもの、二頭が同時に現れた。

 小さい方のフォレストボアが、さっきと同じように地面に鼻先をぶつける。

 ぴいんと、ギターの弦が切れるような音がした。


 もう一匹のフォレストボアが、こちらに突進してくる。

 背後で詠唱の声がすると、光のようなものが、ソイツに飛んでいった。

 フォレストボアの前に、高さ二メートルほどある土の壁が現われる。

 

 ズシン


 こちらからは見えないが、フォレストボアが土壁にぶつかったのだろう。

 土壁が崩れおちると、そこに倒れていたヤツがよろよろ立ちあがるところだった。


「しっ!」


 あっという間に距離を詰めたコウチャンが、フォレストボアに剣をつき刺す。

 胸から入った剣は、心臓に達したのだろう。

 フォレストボアは、うずくまるように動かなくなった。


「さらに三匹来るぞ!」


 山賊トカレが、大声で叫ぶ。

 どうやら、安心するにはまだ早そうだ。





 



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