第74話 フォレストボア討伐(3)


 フォレスター魔術学院の西側に広がる森は、遥か遠く国境の山脈まで続いているそうだ。

 学院の敷地から森へ入った冒険者パーティ『剣と杖』は、山賊トカレを先頭に、その後ろに剣士コウチャンが続き、その背後を弓師ラズナ、魔術師メイリーンが守る隊形で、ゆっくり進んでいた。

 俺? 俺はコウチャンの左後ろを歩いている。何も分からないから、言われたとおりにしているだけなんだけどね。


「どうやら、学院の近くにはいないようだな」


 二時間ほどフォレストボアを探し歩いた後、リーダーのコウチャンがそう言って立ちどまった。

 そこは木々がまばらで、地面は緑の柔らかい草で覆われていた。

 木立の合間から、湖が見える。


「ここで休んでから、もう少し深い所を探すぞ」


 コウチャンが言いおわらないうちに、山賊おじさんのトカレが草の上にビニールシートのようなものを敷く。この世界にビニールがあるとは思えないから、魔獣の素材だろう。


「ふう、やっと休憩かあ」


 敷物の上に、すぐに座りこんだのは、弓師の女性ラズナだった。

  

「グレン君、座るといいよ」


 丸顔のメイリーンが、優しく声をかけてくれる。


「ありがとう」


 俺はみんなの邪魔にならないよう、敷物の隅に腰を下ろした。

 敷物の下にある柔らかい草がクッションになり、座り心地は悪くない。

 木々の爽やかな香りに包まれる。

 これが討伐中でなかったら、きっと楽しいハイキングとなっただろう。


 それぞれ自分が持ってきたお弁当を広げる。

 昨日屋台で買った肉串の残りをピュウと分け合って食べていると、四人が少しずつ、食べ物を分けてくれた。


「なにこれ! すっごく美味しい!」


「それは、有名な料亭の肉料理だよ」


 コウチャンが、ぱくつく俺を見て笑っている。


「これ、噛めば噛むほど旨味が出てきますね!」


「アイアンホーンっていう銀ランク魔獣の干し肉だ」


 トカレは、山賊風の顔が笑顔で崩れている。


「うわっ、この果物、甘っ!」


「うふふ、それ、『マラアク』の実ですよ。

 西方の国で採れる珍しい果物です」


 メイリーンも、俺が夢中で食べるのを見て微笑んでいる。


「こ、これは……か、固いですね」


「コロ芋を干したやつだから、固いのは当たり前だよ!

 それに、あたいはまだみんなほど稼いでないからな!」


 銀ランクのラズナが、ふてくされる。


「ははは、しかし、たまには新人と一緒に冒険するのも悪くないな。ほんと初々しいよ」


 コウチャンが、笑っている。

 なんか、ダシにされたみたいだけど、みんなが楽しそうだから、まあいいか。

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