第73話 フォレストボア討伐(2)

 院長室から出た『剣と杖』の四人と俺が階段を降りていると、鐘が鳴った。

 時間からして、午前中の授業が終わったのだろう。

 俺たちが三階から二階に降りる頃には、各教室から廊下に、たくさんの生徒が出てきた。


「おい、あれっ! コウチャンじゃないか?」

「キャー、ラズナさんよ!」

「メイリーン先輩もいる!」


 どうやら、『剣と杖』の面々は、ここで有名らしい。

 あっという間に四人は生徒たちにとり囲まれた。

 ああ、違った。なぜか山賊おじさんだけ、生徒が寄っていかない。

 まあ、あの人相と格好だからねえ。


「なんで、あんたがいるのよ!」


 あーあ、だから、コソコソしてたのに、よりによって一番やっかいなのに見つかっちゃったよ。

 

 俺の前で顔をまっ赤にしているのは、オデコに絆創膏のようなものを貼った、エリーゼだった。

 この前の件で、オデコすりむいちゃったか。


「あんた、無期限の謹慎じゃないの!?」


「ああ、そうだよ」


「じゃあ、なんで学院にいるのよ!」


「ああ、それね。ギルドの依頼で、『剣と杖』の人たちと、魔獣の討伐をすることになったんだ」


「なっ、なんですって!」


 エリーゼは赤い顔のまま、俺を睨んでブルブル震えていたが、突然振りかえると、『剣と杖』をとり囲んだ生徒たちをかき分けはじめた。

 彼女、モグラみたいだね。


「ピュウ!」


 どうやら、ピュウも俺の意見に賛成のようだ。

 エリーゼは、メイリーンのローブにすがりつくと、必死に何か訴えているようだ。

 メイリーンは、首を横に振っている。

 やがて、呆然とした顔のエリーゼが、集団からよろよろはじき出された。


「そ、そんな、なんで!」


 彼女は、廊下に座りこんでしまった。



 ◇


 教師が数人がかりで生徒たちを教室に入れ、俺たちは、やっと校舎から外へ出ることができた。


「メイリーンさん、エリーゼのこと知ってるの?」


「ええ、まあ、なんというか……」


 メイリーンは、人の良さそうな丸顔に、困惑の表情を浮かべている。


「エリーゼったら、あれだろ、メイリーンが学院時代に追っかけられてたっていう」


 トカレさんが、そんなことを言った。


「えっ!? エリーゼって、メイリーンさんの追っかけだったの?」


「そうよ、グレン。メイリーンは優しいから、ムチャクチャされたらしいの」


「ムチャクチャって――」


「お風呂に乱入するとか当たり前で、朝起きたら隣に寝てたり、挙句はトイレに一緒に入ろうとしたらしいわよ」

 

「あの子は魔術のことになると、周りが見えないから」


 メイリーンは、エリーゼをかばうようにそう言った。

 だけど、トイレはイカンだろうトイレは!

 そういえば、ルシル校長に会った時も、あいつ、異常に興奮してたよなあ。




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