第70話 ギルドからの頼み(上)

 疲れていたのか、ピュウはその夜、眠ったままだった。

 きっと迷宮都市クレタンからの長旅で、疲れていたのだろう。


 朝になり、俺が目を覚ますと、ピュウは開けはなした鳥かごから出て毛づくろいをしていた。


「ピュウ、お早う」


 声を掛け、昨日の食べ残しを彼の足元に置いてやる。

 ピュウは焼いた串肉をついばんでいる。

 俺は慌てて肉から串を抜いてやった。


 ルシル校長が用意してくれた家には、小さいながら裏庭があり、そこには井戸が備わっていた。

 つるべが失われていたので、ロープと木桶を買うことにする。

 やっぱり、お金が心もとない。


「ピュウ、ギルドに行くよ」


 部屋に戻り、そう声を掛けると、小さな黒いフクロウは、さっと俺の肩にとまった。

 こいつって、言葉が分かってるんじゃないかって思うことがあるんだよね。



 ◇


 帝都ギルドまでは思ったより遠かった。

 毎日これだけ歩くのは大変かもね。

 

 この前もそうだったが、テーブルに着いている冒険者たちは、思ったより大人しく、俺にイチャモンをつけるどころか、こちらをチラリと見る人もいなかった。

 これじゃあ、イベントも起こりようがないよ。


 受付が開いていたので、カウンターの前に立つ。


「あっ、あなた! グレン君、来てくれたの?」


 挨拶抜きで話しかけてきたのは、この前もいたモデルっぽいお姉さんだった。

 

「ええと、初心者向けにお勧めの依頼はありませんか?」


「あ、ちょうどいいのがあるわよ。ちょっと待ってね」


 お姉さんはカウンターの向こうから姿を消すと、ギルド奥に通じる通路から出てきた。

 待合室にいくつかあるテーブルの一つに行き、冒険者たちと何か話している。


「おう、チューニャビーの兄ちゃん、こっちに来な!」


 そのテーブルから冒険者の一人が立ち上がり、話かけてくる。

 それは、以前に会った山賊風の冒険者だった。


「山賊さん、こんにちは」


「さ、山賊だって!? 俺っち、トカレだって名乗っただろうが」


「あははは! 山賊だって! こりゃあいい! ほら、坊や、こっちにおいで」


 山賊おじさんの隣に座っていた、弓を背負った女性が立ち上がって手招きする。

 地味な薄茶色の上着に、革のジャケット、革のパンツといういでたちの彼女は、二十台後半だろう。

 キレイと言うより、カッコイイ人だ。 


「まあ、座りなよ」


 彼女は、隣のテーブルにあった空き椅子を、自分が座っている方のテーブルへ持ってきた。

 

「ありがとうございます」


 用意された椅子に座る。

 テーブルには、山賊おじさんと弓のお姉さんの他に、黒いローブ姿の若い女性、革鎧を着けた剣士風のおじさんがいた。

 

「君が噂のチューニャビー君か」


 黒ローブの女性が、ジロジロとこちらを見る。

 色白の丸い顔の頬にはそばかすが目立つから、彼女は見た目より若いのかもしれない。


「グレンです」


 あだ名がチューニャビーにならないよう、念を押しておく。


「トカレを山賊と呼ぶとは気に入ったぞ。俺がこの『剣と杖』のリーダー、コウチャンだ。弓を背負ってるのがラズナ、黒ローブはメイリーンだ」 


 剣士風のおじさんが、みんなを紹介してくれた。

 






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