第68話 処分
次の日、俺は魔術実技の一件で、学院長代理から呼びだしを受けた。
授業中にもかかわらず教室に入ってきたポタリィ先生に連れられ、ミリネと一緒に、三階のある部屋の前まで来る。
教室からここまでニ十分は歩いたと思う。
この学院、やっぱり大きすぎるよ。
「失礼します」
重厚な木の扉にノックをした先生が、扉越しに声を掛けると、それが音もなく開いた。
中は広い部屋で茶色の絨毯が敷かれていた。奥の窓際には、大きなデスクがあり、学院に来た日に会った小柄なお爺さんが座っていた。
そして、その右後ろに立つルシル校長は、こちらに背を向け窓の方を向いていた。
「やはり問題を起こしおったな!」
机に両肘をついたおじいさんは、組んだ拳の上に顎を載せ、不機嫌な声でそう言った。
「パーシバル家を始め、生徒たちの家から苦情が来ておる」
「申し訳ありません」
おじいさんの言葉を聞くと、ミリネと俺の横に並んでいたポタリー先生が、そう言って頭を下げた。
「ケガをした者がいる以上、なんらかの処分を下さねばならん」
おじいさんは、ポタリィ先生の言葉を聞いているように見えなかった。
「そうだな、お前は無期限の謹慎……」
おじいさんが、組んでいた手を解き、俺に指を向ける。
「そして、お前は学院を辞めてもらおう」
彼はそう言いながら、ミリネを指さした。
「ミリネは何もしていませんよ! 俺が辞めます!」
俺の口からは、反射的にそんな言葉が出た。
ミリネはこの学院に入れて喜んでいたけど、俺にはこの学院に対する思いいれなんて、これっぽっちも無いからね。
「……まあ、いいだろう。では、ミリネとやらを無期限の謹慎、お前を退学――」
「ちょっと待て、ハーゲル」
それまで黙っていたルシル校長が振りかえる。
彼女は、なぜか微笑を浮かべていた。
「貴族への対処は私がするから、この者たちへの処分は見送ってくれ」
「しかし、理事長、さすがに処分なしという訳には――」
えっ? ルシル校長って、ここの理事長なの?
「分かっている。今回の件、直接係わったのはグレンだけだ。だから、彼は無期限の謹慎、ミストとポタリィ先生はおとがめなしとする」
あっ、俺、さっき思わず「ミリネ」って言っちゃってた?
「しかし、それでは――」
おじいさんは、また反論しかけたけど、なぜかルシル校長の方を見てビクビクしているね。
「そういえば、お前を学院長にする件が保留になっていたな」
ルシル校長のその言葉で、お爺さんが、がたっと立ちあがった。
「り、理事長! ほ、本当ですか!」
「ああ、さすがに二十年もそのままだったからなあ」
えっ!? ということは、ルシル校長、見かけと違う年なの?
「あ、ありがとうございます、ありがとうございます!」
お爺さん、まっ赤な顔で、ぺこぺこしてるよ。
よっぽど学院長になりたかったんだね。
だけど、勢いよく立ちあがったから、カツラがずれてるよ。
この人、おハゲさんか。
「ハーゲル、長年の功績を讃え、学院長代理から学院長へ昇格だ。受けてくれるな?」
「は、はい、そ、それはもちろんです!」
俺はお爺さんの名前を聞いて、吹きだしそうになった。異世界の名前って、破壊力あるなあ。
「では、この三人の処分については、私に任せてもらって問題ないな?」
「はい、もちろんですとも!」
「グレン、ミスト、ポタリィ、下がっていいぞ」
ミリネが退学処分にならなくて、ホント良かったよ。
だけど、俺、無期限の謹慎って、ずっと夏休みみたいなもんじゃない?
やったね!
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