第66話 失敗
ミリネの魔術に驚き、動きを停めていた生徒たちだが、ポタリィ先生の声でやっと練習を再開した。
エリーゼは例のいけない顔のまま、凍ったように動かない。
これで安心と思ったのも束の間、三人の男子生徒が俺に近づいてきた。
まん中に背が高く太った男子が両腕を組んで立ち、その左側に小柄で痩せたネズミのような顔の男子、右側にこれまた太ったヌートリアっぽい男子が体を斜めに構えている。
戦隊もののヒーローになれなかったネズミ系だよね、これ。
まん中の男子だけは、顔つきが豚っぽいから、オーク系?
「ヨゴレ、お前、相手がいないんだろう? 俺たちが見ててやる。魔術を唱えてみろ」
オーク系がそんなことを言ってきたけど、俺、魔術唱えられないんだって。
だいたい、ワンドって言うの? あの指揮棒みたいなの持ってないし。
「おい、聞こえねえのか? モーグさんが、魔術を見せろって言ってんだよ!」
小さなネズミが、突きでた二本の前歯を鳴らす。
いや、そこまでネズミに似なくても……。
しかし、太っちょの名前はモーグだって。
名前までオークっぽいな。
「ふふふ、そう急かしてやるな。まずは俺が手本を見せてやる」
複雑な模様が描かれたワンドを手にしたオーク、いや、モーグが、それで水面を指し、呪文を唱える。
ワンドの模様が光ると、水面に火球が浮いた。
それはピンポン玉くらいの大きさで、赤黒かった。
魔術が不安定なのか、火は揺らめいて、今にも消えそうだった。
ワンドを引き、火を消すと、こちらへ顎を突きだす。
いやあ、アゴで人を使うっていう表現があるけど、リアルでそれを見るとはね。
ネズミ系二人とオーク系一人が、余りにも期待に満ちた顔をするから、とりあえず、それに応えてあげよう。
魔術が使えないと分かれば、どこかに行ってくれるだろう。
俺は右腕を水面に伸ばした。
「きゅー、ポンッ!」
俺の呪文は、しかし、オークたちの爆笑を誘ったようだ。
「ブハハハハッ! なんだそりゃ!? おい、聞いたか今の! ブハハハハハッ!」
ブハブハうるさいよ、君。ますますオークっぽいな、コイツ。
俺が習った呪文って、「きゅー、ポンッ!」だけなんだよ!
あっ……そういえば、習ったわけじゃないけど、「ぶっ飛べ!」と「地獄の業火に焼かれちまえ!」ってやつがあったな。
火魔術なら、「地獄の……」の方かな。
オークたちの笑い声を背に、もう一度水面に右手を伸ばす。
「おい、待てっ!」
誰かの声が聞こえた気がしたが、すでに言葉が口から出ていた。
「地獄の業火に焼かれちまえ!」
呪文の効果は劇的だった。
水面に大きな火柱が立ち、次の瞬間、そちらからとてつもない衝撃が襲ってきて、ふき飛ばされる。
砂地を転がり、砂まみれになった俺が立ちあがると、死屍累々というか、死んではいないが、そこら中に生徒が転がっている。
これって、やっちゃった?
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