第44話 闇の中で(下)
「順調だなあ」
どこか間延びしたコルテスの声が部屋に響いた。
この部屋は、第二層に降りてすぐのところにある、モンスターが出ない部屋だ。
ルークたちは、ここを『別荘』と呼んでいた。
「ねえ、グレン。私の弓、見てくれた?」
隣に座ったリンダが体を寄せてくる。
はち切れそうな革鎧が腕に触れ、俺はちょっとドキドキした。
「凄かったよ! もともと弓が使えたの?」
「うん、おばあちゃんから習ったんだ」
「へえ、おばあさんって冒険者だったの?」
「ううん、違うけど、なんでもできる人だった」
リンダの声が曇る。
おばあさんに何かあったのかもしれない。
「そんなことより、グレンは誰から剣を習ったの?」
「自己流だよ」
地球世界にいたときを除けばだけど……。
「グレン、あんた、急に動くと危ないんだよね」
いつの間にか前に立っていたイニスが、俺を見下ろしている。
「急に動く?」
「さっきボス部屋で、いきなりゴブリンに切りかかったじゃない!
私が撃ったファイアバレットが、もうちょっとで、あんたの頭に当たってんだから!」
「急に動いたつもりはないんだけど――」
「とにかく、次から気をつけなさいよね!」
「あ、ああ、分かった」
本当はイニスの言ってることが理解できないが、ここはとりあえず頷いておく。なんと言っても、俺はパーティに入れてもらってるわけだし……。
そのとき、部屋の入り口近くに座っていたルークが立ちあがった。
「何か聞こえる」
みんなが動きを停め、耳を澄ませる。
それはすぐにはっきりした音となって、俺たちの耳に届いた。
「た、助けてくれーっ!」
「ひいいいーっ!」
「痛えぇっ!」
ルークがすかさず指示を出す。
「みんな、荷物持って! 対人戦があるかもしれない! グレン、先頭に立ってくれ!」
「ああ」
この中で、ダンジョンの対人戦を経験したことがあるのは俺だけだから、ルークの判断は的確だと思う。
俺は周囲を警戒しながら『別荘』から通路へ出た。
叫び声と足音は通路の左手から、つまり、俺たちがボス部屋から降りてきた階段の方から聞こえる。
すぐに七、八人の男たちが現われたが、彼らの姿は普通ではなかった。
モンスターの返り血を浴びたのか、みんな冒険者服が血だらけだ。
中には、服がベリベリと破れてる者もいる。
冒険者服は、とても丈夫な生地で作られているから、ちょっとの事ではそんなことにならないはずだ。
下層で強いモンスターと戦ったのかもしれない。
「た、助けてくれ!」
片足を宙に浮かせた男が叫ぶ。
上げている方の足は、あり得ない方向へ曲がっていた。
「ポ、ポーションを分けてくれ!」
「水、水を!」
「肩を貸してくれ!」
口々に叫ぶ男たちに、ルークが話しかけた。
「何があったんです?」
「ヤ、ヤツが来るぞ! 急げ! おい、何やってる!?」
足を折った男に肩を貸そうとした俺に、血まみれの顔を向けた男が怒鳴った。
「そんなの置いてけ! ヤツが来るぞ!」
血だらけの男は俺たちを追いこし、ダンジョンの奥へ走りさった。
その後を仲間らしい男たちがぞろぞろ追いかける。
ケケケケケ
男たちがやってきた後方の通路から、異様な音が聞こえた。
魔獣の鳴き声かもしれない。
「みんな、隊列!」
ルークの声で、みんなが決められた位置に着く。
男に肩を貸している俺は、隊列の後ろへ下がろうとした。
しかし、それより前に、そいつが姿を現した。
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