第6部 闇の中で

第42話 闇の中で(上)

 ぼんやり光るダンジョンの壁が、通路の形を浮かびあがらせる。

 こういう時、実家で愛用していたマグライトがあればなあと思ってしまう。

 

「イニスは、周囲を照らすような魔術は使えないの?」


 隣に並ぶルークに小声で尋ねる。


「使えるよ。でも、魔力を温存するために使わないんだ。それより、打ちあわせ通り、本当に必要な事以外は、しゃべらないようにね」


「あ、そうだった。ごめん」


「今から気をつけて」


 周囲にいるモンスターの気配を知るためには、五感をとぎ澄ませ、周囲を探る必要がある。

 

「いるよ!」


 盗賊のリンダが小さいがハッキリした声で、モンスターの接近を知らせる。


「スライム二体!」


 すぐにルークが短剣を抜き、腰を落として構えた。

 

 キュッ!


 イニスの火魔術が命中して、左側のスライムが死んで形を崩す。

 ルークの短剣が、残った右側のスライムを切りさく。

 死んだスライムはべちゃりと床に広がった。

  

「今のはグレンが処理するべきだよ。ボクに遠慮せず、積極的に戦ってね」


 確かに、こちらの方が敵に近かったね。


「うん、分かった」


 ちょっと遠慮しちゃってたかもしれない。次からは、ガンガン攻撃しよう。

 俺たちは、第一層をどんどん進んでいった。



 ◇ 


「クレタンダンジョンは初めてだが、たいしたことねえな」

 

 グレンを追っている男たちの一人は、余裕を見せている。


「お前は馬鹿か? ここは、まだ第一層だぜ。モンスターもコウモリとスライムだけだが、中にゃ変異種もいるんだ。油断してると死ぬぞ!」


「へん! 来るなら来いってんだ! だいたいこの人数で来ちまったのが、間違いじゃないのか?」


「ああ、確かにな。標的の小僧、まだ冒険者になったばかりなんだろ? この面子が十五人も必要だったのか?」


「まあ、金になりゃそれでいいじゃねえか! げへへ、報酬で何するか、俺ゃ今から楽しみだぜ!」

 

「違えねえ、ぶははは!」


「うえっ! なんだこりゃ? 気持ちわりぃ! スライムか? 黒えスライムなんて初めて見たぜ」


「おい、お前! そいつに触らなかっただろうな?」


「よく分かんねえが、なんでだ?」


「黒スライムは毒を持ってることがある。毒消しポーション飲んどけよ」


「馬鹿言え! ダンジョンの浅えとこで、ポーションなんか必要ねえ。だいたいそんなもん持ってるわけねえじゃねえか! おい、誰か毒消しねえのか?」


「持ってねえぞ」

「そんなもんねえな!」

「お前の言うとおり、こんな浅えとこで毒消しなんか要るか?」


 金だけで集められた男たちは、仲間のことなど気にしなかった。

 彼らの中で四人の男が毒消しポーションを持っていたが、万一の時に備えそれを自分用にとっておいたのだ。

 この辺、個人主義の冒険者らしいといえばいえる。   

 ただ、それが自分たちを奈落に落とすと、予想したものはいなかった。


 

 

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