第41話 本番


 実技試験当日、冒険者学校の二年生に混じり、ダンジョン前の広場に集合した。


「では、これから実技試験をおこなう。パーティごとに、少し時間を空けて挑戦することになる。『幸運の鐘』、『疾風の虎』、『絆』の順だ。 何度も言ってきたが、ダンジョンでは絶対に無理をしないことだ。命あってのものだねだからな」


 傷だらけのザラート先生が言うと、説得力が半端ない。


「それから、第六層には絶対降りるなよ。今のお前たちなら簡単に死ぬ」


 静かな口調が、嫌でもそれが事実だと教えてくれた。

 この前、俺はよく分からないままに第ニ十層を越えられたが、あれはたまたま運が良かったからに違いない。

 俺のレベルが36っていうのも、どうも信用できない。いくら校長が言うことでも、いや、あの校長が言うことだからこそ、やっぱりギルドカードが壊れているって線が強いよね。


「では、最初のパーティ、気をつけてな!」


 最初のパーティ四人が、クラスメートたちの声援を背に、ダンジョンの中へ消えた。 

 後に残った二年生は、跳びはねたり、体操のようなことをしたり、連携の確認をしたりと、なんだか落ちつきがない。やっぱり、みんな緊張してるんだろう。

 どうやら練習と本番は違うようだ。

 二番目のパーティもダンジョンの入り口を潜り、いよいよ俺たちの番となった。


「ルーク、お前の班は心配いらんだろうが、とにかく無理だけはするなよ」


「はい、分かってます」


 ザラート先生から声を掛けられたルークは、俺たちに円陣を組むよう指示した。


「練習したことを活かそう。後衛の二人は前衛の動きをよく見て、魔術と弓を使うこと。最後にポーションの確認はいいかな?」


「大丈夫!」

「ちゃんと持ってるわ」

「大丈夫だよ」

「おいらも!」


「グレン?」


 ミリネに預けてきたピュウのことを考えていた俺は、返事が遅れてしまった。


「あ、ああ、大丈夫だ」


「頼むぞ、前衛がぼーっとしないでくれよ!」


「うん、もう大丈夫!」


「じゃあ、行くぞ!」


「「「おーっ!」」」


 俺たちは、暗いダンジョンに踏みこんだ。



 ◇ 


 冒険者学校の生徒たちがダンジョンに入っていくのを、物陰から見ている男たちがいた。


「おい、あのパーティだろ? ダンジョンに入っちまったぜ。急がなくていいのか?」


「落ちつけよ。あそこにいる男が見えるか?『顔傷スカーフェイスザラート』だぜ。まさか、こんな所でお目にかかるとはな」


「誰だ、そのザラートとかってのは?」


「少し前まで王都で鳴らした冒険者さ」


「なんで、そんなヤツがこんなとこにいるんだ?」


「知るか! それより、あの様子だと標的の『グレン』って黒髪と知りあいかもしれん。ザラートがいなくなってから、ダンジョンに入るぞ」


「臆病風に吹かれたんじゃねえよな?」

   

「馬鹿言え! たっぷり前金もらってんだ。ここで引けるかよ。おっ、ザラートのヤツが動くぜ!」


「ホントだな! よし、待機中のヤツらに声かけてこい!」


「そりゃいいが、おめえ一人で突っこむなよ!」


「当たり前だ! グズグズしてると、ザラートが戻ってくるかもしれねえ! さっさと呼んでこい!」


「おう!」


 こうして、目をぎらつかせた十五人の屈強な男たちが、武器を手にダンジョンへ入っていった。



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