第38話 少年の謎
私が冒険者学校の校長になってから、十年近くの時が流れた。
私、ルシル=コーネリアル=フォレスターにとって、この十年は比較的穏やかなものだった。
それまでの年月があまりにも危険に満ちあふれ、気の休まらないものだったから、ここでの生活は私の心に安らぎをもたらした。
ただ、それも十年を迎えた今、少し退屈を感じてきたところだった。
そんなとき、ギルドマスターのフッカから、少女と少年を紹介された。
少女については、以前『鋼』のゴリアテから話を聞いていたから、その数奇な生いたちを知っていたが、それより興味を引かれたのは、もう一人の少年だった。
黒髪、黒い目の少年は、礼儀作法を全く知らない田舎者だった。ただ、私の魔眼は、思わぬ情報を教えてくれた。
少年は、異世界からの迷い人で、レベルが36もあったのだ。
これはベテランの冒険者がやっとたどり着く境地だ。
この少年、ギルドからの情報では、最近冒険者になったばかりだというではないか。
そして、魔眼があばいたもう一つの秘密、それはこの少年がドラゴンが持つべき称号を持っていたことだ。
『竜の落とし子』などという称号は、人族が授かれるものではない。
まさか自分の魔眼を疑う時が来るとは、思いもしなかった。
そして少年の肩にとまっていた小さな黒いフクロウ。
このフクロウは、なんとレベルが150を超えており、しかも、少年と同じ『竜の落とし子』という称号を持っていた。
あれでは、レザーイーグルにつつかれただけで死んでしまうだろう。わざわざ、それほど脆弱な姿に変身して、何の意味があるのか?
とにかく、少年と黒いフクロウには、なにかしら関係がありそうだ。
そして、最大の謎が、少年が持つユニークスキルだ。
かつて、『剣と盾』というパーティの一員だった私は、後衛を受けもっていた。
後衛を任されたのは、単に魔術が得意だったからではない。
魔獣やモンスターに出会った時、そのレベルやスキルを魔眼で読み取り、みんなに指示を出せるからだ。
中にはユニークスキルを持つ魔獣もいたが、それが読み取れないことなど一度もなかった。
ところが、魔眼で見ても、少年のユニークスキルだけは見えなかった。
ユニークスキル:■■■■■■■■■
派生スキル:■■■■■■■■■■
しかも、【派生スキル】という見慣れないものまである。
表記からして、ユニークスキルから生まれる下位スキルではないかと推測するぐらいしかできない。
フックからの報告で、彼が持つユニークスキルは、おそらく魔術に関係があると考えている。
魔術の研究者として、これは見逃せないことだ。
彼が持つユニークスキルとは何か?
それから派生したスキルとは何か?
私が持つユニークスキルも派生スキルを生じる可能性があるのだろうか?
こんな辺鄙な街で校長をしていて本当によかった。
このような面白い「ネタ」を拾えたのだから。
長命種である私たちエルフにとって最大の敵である「退屈」との戦いは、しばらくお預けになりそうだ。
グレン少年、待っていろ! この私、『魔女ルシル』が今に君の秘密をあばいてくれる。
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