第37話 美少女校長とチューニャビー

 授業が終わると、生徒たちにとり囲まれた。


「ねえ、どこから来たの?」

「ダンジョン行ったことある?」

「魔術使える?」


 ブロンドの髪を肩まで伸ばした、真面目そうな背の高い少女が、俺の左目を指さす。


「それ、どうしたの?」


 ああ、この眼帯が気になるんだね。

 

「カッコイイでしょ! 昨日買ったんだ」


「ええっと、目が悪いわけじゃないのね?」


「別に悪くないよ。プーキーって人の魔道具屋で買ったんだ」


「「「プーキーの魔道具屋……」」」


 なぜかみんなの声が揃う。

 そして、なぜか周囲にいた生徒たちが誰もいなくなった。

 なんでだろう?



 ◇


 厩舎のような場所に預けておいたピュウを迎えにいってから、学校の二階へ上がる。

 一番奥の部屋が校長室だと聞いている。

 ノックをすると鈴を転がすような声がした。


「どうぞ」


 扉を開けると、窓際の大きな机に、声のイメージ通りの可憐な少女が座っていた。

 緑髪を三つ編みにした少女の耳は長く、ある種族の特徴を表していた。


「エルフ!?」


「グレン、失礼よ!」


 そう言ったのは、白いワンピースを着たミリネだ。

 彼女はエルフ少女の横で、木の丸椅子に座っていた。


「校長のルシルだ」


 どこか魔道具屋のプーキーさんに似た、エルフの少女がそう言った。


「ピューッ!」


 いつもは静かなピュウが、なぜか一声高く鳴いた。


「えっ!? エルフ美少女が校長先生?」


 よく見ると、少女は左目の瞳が緑、右目が銀色だった。


「オッドアイ、キター!」


「こやつは、いつもこうなのか?」


 エルフ少女が、困ったような顔でミリネに尋ねる。


「時々、変なことを口走りますね」


「ふう、なるほど。だが、フッカのやつがこやつを私の所に送ってきたのは正解だな」


 銀色の右目がキラリと光った。


「異世界から来た少年と、変化へんげした――か」


「――」の部分は、小声でよく聞き取れなかった。


「えっ! 異世界?」


 俺より先に、ミリネが驚いている。


「ミリネ、なんで今さら驚いてるの? 俺が異世界から来たって、前に話したよね!」


「えっ、あれって本当だったの?!」


 校長は、俺たちの会話を無視すると決めたようだ。


「お前、レベルがやけに高いな。それにユニークスキルを持っている」


「えーっと、レベル36って、何かの間違いですよね?」


「間違いであるものか。全てを見通す、私の『真実の魔眼』にかかればな」


 校長は銀色の右目を指さした。


「はい、キタコレ、魔眼キター!」

 

「また、訳の分からんことを。しかし、小僧のユニークスキル、私が読めなかったのは初めてだ」


 はい、【中二病(w)】です。いや、読めなくていいから。

 

「しかし、お主、その眼帯は……アヤツの作ではないか」


「ええと、魔道具屋のプーキーさんをご存知ですか?」


「恥ずかしながら、あれは私の姉だ」


 やっぱり!

 エルフだから似てるわけじゃなかったんだね!


「特殊な嗜好しこうの者むけに我が一族の高貴な能力を使う、どうしようもないヤツでな」


 特殊な嗜好?


「なんでも、『チューニャビー』とかいう趣味らしいぞ」


 それを聞いたミリネが、すぐさま口をはさんだ。


「あっ、それ聞いたことあります! そういえば、グレンが時々する行動って『チューニャビー』みたいです」


「おい、お前! プーキーの店に行ったのは、やはりそういう趣味なのか!?」


 だから、どういう趣味よ!?


「グレン、『チューニャビー』っていうのはね。使えもしないのに魔術を唱えたり、ありもしない呪文を唱えるふりをして悦にいる趣味を言うのよ」


 ミリネが説明してくれる。

 んっ!?

 もしかして?


「なんでも『チューニャビー』って言葉は、異世界出身の勇者様が残した言葉らしいの」  


 間違いない。

『チューニャビー』って、「中二病」がナマった言葉だ!

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