第39話 パーティ加入

「グレン君、食事を済ませたら実技棟へ行ってください」


 午前中の授業が終わると、担任のポッチャリィ先生から声を掛けられた。

 ぽっちゃり先生がポッチャリィという名前だとはこれいかに。

 冒険者学校では、座学の授業は午前中だけだ。

 午後からは、実技の授業がある。


「ええと、今日は広場で短剣の使い方を教えてくれるんですよね?」


 この世界でも中二病チューニャビーへの偏見があると知った俺は元気がなかった。

 できるなら、ギルドへ帰って部屋にひきこもりたいくらいだ。


「君だけは、別メニューです。これは、校長先生からのご指示ですよ」


 ふうん、なんでだろう?

 めんどうだが、とにかく実技棟へ行ってみるか。



 ◇


 実技棟は、学校の裏にある古びた建物だ。

 元は倉庫か何かに使っていたのだろう。

 平屋の中は、天井が高くがらんとした空間になっている。

 床はなく、地面がむき出しだ。

 そこに十人余りの少年少女がいた。


「あっ、グレン君!」

 

 頭に赤いバンダナを巻いた小柄な少年が手を振っている。


「ルーク?」


 ルークがいるということは、ここにいるのは冒険者学校の二年生だろう。


「グレン、こんにちは!」


 ふくよかな体で革鎧をムッチリふくらませた、盗賊のリンダが小走りでやってくる。

 

「どうして学校に?」


 怪訝な顔をしているのは、黒いローブの魔法少女イニスだ。


「もしかして入学した?」


 いつの間にか隣に立っていた、のっぽの短槍遣いコルテスが俺を見下ろす。


「うん、ここの一年生になったよ。先輩、これからよろしく」


「ははは、先輩か~」

「グレンから先輩って言われるなんて……」

「いいわ、先輩を敬いなさい」

「イニスはどうしていつも――」


 パーティ『絆』のみんなが口々に話しはじめたが、すぐにそれは止まった。

 顔中が古傷だらけのおじさんが近づいてきたからだ。 


「おまえがグレンか?」


 おじさんの声は、お腹に響くほど低く力強かった。


「はい、一年生です」


「校長から言われてる。実技の授業、お前は二年のクラスだ」


 えっ?!

 なぜそんなことに?


「ザラート先生、グレンをボクらのパーティに入れたいんですが」


 ルークがいきなりそんなことを言った。


「ん? お前ら知りあいだったのか。できるなら『絆』には盾役が必要なんだが……まあいいだろう。じゃ、グレン、お前はこいつらんとこへ入れ」


「は、はい」


「やった! グレン、よろしくね!」


 嫌がっていた前衛が確保できたからか、リンダが跳びあがって喜んでいる。


「まあ、グレンならね」

「よろしくな、グレン君!」


 イニスとコルテスも、俺みたいな初心者をパーティに入れてかまわないのかな。


「え、ええと、よろしくお願いします」


「ははは、グレン、緊張しなくていいよ。うちは、そういうパーティだから」


「ルーク、ダンジョンの中では、そうはいかんぞ」


 ザラート先生が厳しい声で言う。

 顔の傷が怖いよ。


「はい、ダンジョンでは気を抜きません」


「わかってるならいい。来週の実技試験まで、連繋の確認を怠るなよ」


「「「はい!」」」


 先生が他の生徒たちの所へ行くと、『絆』は新しい隊形を話しあった。

 そして、ルークと俺が前衛、コルテスが中衛、イニスとリンダが後衛という形に落ちついた。


 

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