第33話 魔道具屋
ギルドの小部屋で誰か来るのを待っていたが、いくらたっても来ないので、受付に顔を出してみた。
「あのう、個室で待ってろって言われたんですが……」
「ええと、君、だれ?」
初めて見る、きつい目つきの女の人が、じろりと俺をにらんだ。
「……いえ、いいです」
開きっぱなしの戸口から見える外は、もう暗くなっている。
仕方ないからギルド内の宿泊室に戻る。
人さらいをやっつけた日には豪華な部屋に泊まれたが、次の日からは狭い個室が当てがわれた。
落ち込んでいるミリネは別の部屋に泊っている。
彼女のことが心配だったが、ベッドに横になるとそのまま寝てしまった。
◇
翌日、目が覚めるとすぐ、ミリネが泊っている部屋の外から声を掛けたが、弱々しい声で、一人にして欲しいという返事が返ってきた。
ルークたちは冒険者学校で座学の授業に出ている。
暇だ。
今日になって、『赤い剣』を捕えた報酬が入ったので、懐は温かい。
ちょっと街にでも出てみようか。
◇
まず鍛冶屋に寄り、研ぎが終わった短剣を返してもらう。
冒険初心者セットの砥石を見せると、おじさんに叱られてしまった。
いい加減な砥石を使うと、かえって剣がダメになるそうだ。
勧められた砥石を買ったが、銀貨二枚も取られた。
ただの石に二万円か……。
鍛冶屋を出て、行くあてもなく歩いていると、ある店先に並べられた商品が目に飛びこんできた。
安っぽい指輪やネックレスの奥に置かれた、その品物は黒い眼帯だった。
眼帯にはアイパッチのまん中に銀色の紋章が書かれており、そのデザインが俺の心を震わせた。
「おっ!」
それを手に取った途端、体に電流が走った。
これイイ!
「ピュウ!」
肩にとまっているピュウが、なぜか鋭く鳴いた。
お前も、これが気に入ったのか?
◇
狭い戸口から半地下の店へ入ると、得体の知れない品々に囲まれた薄暗いカウンターで、緑色の髪をポニーテールにまとめた少女が石のようなものをルーペで見ていた。
「あのー」
声を掛けるが、彼女はこちらを見もしない。
「あのー」
幾分声をあげ、話しかけてみる。
女の子は上目遣いにちらりとこちらを見た。
綺麗な娘だけど、すっごく不愛想な感じ。
それより、長く突き出した耳……。
「も、もしや、エルフ!?」
「仕事中にいきなり入ってきて、その言い草はないんじゃないの?」
見かけより落ちついた声で、そう答えながら少女が俺を睨んだ。
「確かに私はエルフだけど、あんた、初対面の人にいきなり『人族?』って尋ねられたら気分悪いでしょ?」
「ど、どうもすみません。俺、グレンっていいます。声は掛けたのですが――」
「えっ!? もしかしてお客さん? これは夢かしら?」
彼女は自分の頬をつねっている。
どんだけお客が珍しいんだよ!
「ええと、ここは何の店ですか?」
「えっ? それも知らずに入ってきたわけ?」
「ええ、表の眼帯を見せてもらいたいのですが?」
「ああ、あそこに出してるものは、手に取ってもらって構わないわ。ここは魔道具屋よ。ポーションなんかも扱ってるけどね。それよりあんた、【鑑定】持ちなの?」
「ええと、鑑定って、品物の性能なんか見るだけで分かるってスキルですよね?」
「そう、それよそれ」
「ええと、そのスキル持ってません」
「そう……(やったわ!) ええと、あの眼帯はね、私が錬金術で作ったんだ」
「へえ、【裁縫スキル】で作ったんじゃないんですね」
「ああ、正確に言えば、市販の眼帯に錬金術で能力を付与したもんだよ」
「へえ、そんなことできるんですね。さすが異世界!」
「イセカイ?」
「いや、それはこっちに置いといて……あの眼帯、どんなスキルが付与されてるんです?」
「……まあ、その辺はいいじゃない。それより、買うの? 買わないの?」
「そのう、ぜひ買いたいんですが、付与されてるスキルって?」
「今なら安くしとくわよ」
「ええと、そういことではなくてですね、付与してある――」
「そう、分かったわ! ずいぶんあの眼帯が気に入ってくれてるみたいだから、銀貨一枚でどう?」
相場から言うと一万円くらいかな?
「た、高いですね!」」
「えっ? べっ、別に高くなんかないんだから! スキルも付いてるし!」
「だから、そのスキルって――」
「カッコいいでしょ、あれ?」
「ま、まあ……」
「銀貨二枚でどう?」
「さっき、銀貨一枚って言ったよね!」
「チッ、バレたか。わかったわ。じゃ、銀貨一枚ね」
「は、はい」
こうして俺は黒い眼帯を手に入れた。
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