第32話 ステータスの謎

 ルークたちとのダンジョン攻略は、結局一階層だけだった。

 パーティに慣れない俺がいたから、きっと気をつかってくれたのだろう。


 ダンジョンを出ると、まだ陽が高かったので、その足でギルドまで戻ってきた。

 そんな時間だからか、受付には誰も並んでいなかった。


「レシーナさん、こんにちは」


「あっ、グレンさん! ミリネさん、大分元気になりましたよ」


 レシーナさんは、あれから部屋に籠っているミリネの話し相手をしてくれている。

 忙しい仕事の合間を縫ってまで、そんなことをしてくれて本当にありがたい。


「ありがとうございます。あ、そうだ。冒険者カードが壊れてるみたいなんです」


「えっ!?」


 レシーナさんの顔色が変わる。

 周囲を見回すと、カウンターの上に身をのり出し、声をひそめてこう言った。


「そういったことは、ここでお話しできません。個室に入ってもらえますか?」


「この前、入った部屋ですか?」


「ええ、あそこで待っていてください。冒険者カードは、ここで出しておいてください」


「わかりました」


 レシーナさんに冒険者カードを渡し、ギルド奥の個室に向かった。



 ◇ ― レシーナ ―


 恐れていた事が起きてしまった。

 グレン君が冒険者カードの信頼性に疑いを持ってしまった。

 やっぱりあの時、父さんに相談すべきだったのかしら。

 とにかく、カードを調べてみる。 


************************

名前:クロダ グレン

年齢:16

レベル:36

職業:無し

犯罪歴:無し

スキル:【言語理解】、【言語伝達】

ユニークスキル:??? 

称号:???

************************


 ……な、なんなのこれは!

 レベル36!?

 グレン君が「壊れている」って言ったのも当然ね。

 レベル36って銀ランク、いえ、金ランクの冒険者だとしてもおかしくない。

 どういうことなの?

 たとえソロでダンジョンの第二十一階層に到達してたとしても、到底届かないレベルだわ。


 もしかして、禁断の大迷宮にでも挑戦したのかしら?

 いいえ、そんなはずないわ。

 大迷宮は一日や二日で行けるような場所ではないもの。


 さすがにもう秘密にしておくことは難しいわね。

 父さんに相談するしかないわ。

 ああ、もう、本当に厄介なことになっちゃった。


 ◇ 


 昼食の後、ギルマスのフッカが執務室で秘蔵の酒を舐めていると、娘のレシーナが驚くべき知らせを持ってきた。


「馬鹿者! どうしてもっと早く知らせなかった!」


「でも父さん、ギルドカードが壊れてるなんてことになったら、それこそ一大事でしょ」


「馬鹿者! 一大事だからこそ早く報告せんか!」 


「だって、冒険者になったばかりでこんなレベルってどう考えてもおかしいでしょ?」


「だからすぐに知らせろと言っておる! 何年受付をやっとる!」


「二年だけど!」


「馬鹿者っ! そんなことを聞いたんじゃない!」


「馬鹿馬鹿ってうるさい! 父さんなんて大嫌いっ!」


「お、おい、ま、待てレシーナ!」


 叩きつけるように扉を閉めると、娘は部屋から出ていった。


「レシーナ……」


 やってしまった。

 男手一つで育ててきたから、叱ることもせずこれまできた。

 母親の分まで優しくしてやりたかったが、冒険者一筋で生きてきたから、どう接っすればよいか分からなかった。

 初めてあの娘を怒鳴ってしまった……。

 嫌われてしまった……。

 こんな時、どうすればよいのだ?

 あいつが生きていたらきっとレシーナを慰めてくれるのだろうに……。


 娘の事しか頭にないフッカにとって、なぜ娘を叱ったかなどということは、すっかり頭から飛んでしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る