第4部 ステータスの謎

第30話 パーティ体験(上)


 ギルドマスターのフッカさんから、かなりの時間にわたり話をきかれたので、途中何度か寝落ちしかけた。

 同席したギルド職員が青くなっていたのは、なぜだろう?

 最後に職員を部屋から追いだしたギルマスは、ミリネの頭を撫でながらこう言った。


「ミリネちゃん、怖かったな」


 えっ!?

 彼女、「ミスト」って偽名を使ってたはずだけど?


「おじさん!」


 猫耳少女は、フッカの胸に顔を埋め泣いている。

 なぜか胸が痛い。


「おい、坊主。『はがね』のヤツから、なにか聞いてねえか?」 

 

 神殿から人が訪ねてきたら、なぜかゴリアテさんが俺とミリネに逃げるよう言ったこと、そして、クレタンに着いたらギルマスを頼るように言われたことを伝えた。


「神殿……教会か。なるほど、だからヤツはお前たちをここへ寄越したんだな」


「どういうことでしょう?」


「教会の情報網は国と匹敵するか、それ以上だ。そして、教会と国は比較的良好な関係にある。この国で、それに対抗できるのは冒険者組合、つまりギルドぐらいしかないってこった」


 なんか、凄く大事おおごとになってる気がするんですけど?


「おじさん、私がいると迷惑ですか?」


 ミリネがフッカの胸にすがりついたまま、小声で尋ねる。


「安心しろ、ミリネ。お前のことは何があっても守ってやる。だから心配するな。そうだな、とりあえず、アイツに声かけとくか。おい、グレン! しばらくギルドに泊まっていいぞ。明日からは風呂がついてない部屋になるが、そこは我慢しろよ」


「えーっ、そんなあ」


「お前はミリネを守るってことに集中しろ。だが、当面は目立つ行動は控えろよ」


「えーっと、具体的にはどうすれば?」


「初心者らしく一階層とか二階層でちびちび経験値を稼いどけ。何かわからんことがあれば、受付のレシーナに相談しろ」


「ええと、相談しても大丈夫でしょうか?」


 どうも、ミリネには秘密がありそうだからね。 

 

「レシーナは俺の娘だ」


 がーん!

 なんだって!?

 全然似てないじゃん!


「おい、何をそんなに驚いてる?」


「いや、ちょっとメンデル先生に質問が――」


「誰だそりゃ? とにかく、目立つ行動だけはするなよ」


「は、はい」


 その後、ギルド職員に新しい部屋へ案内された。


 ◇


 新しい部屋は、前のものよりかなり狭かった。

 幸い(?)ベッドは二つある。

 ミリネが同室だからだ。

 どうやら、ギルマスは俺をある程度まで信用しているらしい。


 朝食のために待合室へ出ていくと、ざわついていた冒険者たちがピタリと口を閉ざした。

 口髭がある、大柄な赤毛のおじさんが、少年を俺の方へ突きとばす。

 彼がぶつからないよう、その背中を受けとめた。

 少年がこちらを向く。

 バンダナはしていないが、それはダンジョン第一層で会った冒険者だった。


「ルーク?」


「あっ、ごめん、いや、ありがとうグレン」


「どうしたの?」


「ええと、『赤い剣』を君が一人でやっつけたってホント?」


 冒険者たちが、みんな聞き耳を立てている。


「いや、そんなはずないだろう。あの人たち、なんか、でっかいモンスターにやられてたよ」


 ギルマスのフッカから言われた通り、作り話をしておく。


「だよなあ、レベル20代のあいつらが、一人のルーキーに負けるワケねえだろう」

「がははは、まあ、そうだな」

「しかし、アイツら、人さらいとか、ホントとんでもねえことしてたんだなあ」

「モンスターに腕を食いちぎられるのも当たり前だよな」

「あのコも、これで浮かばれ……ないわよね。今もどこかで奴隷してるでしょうから」


 冒険者が、口々に話している。


「ごめんね、君にきいて欲しいって先輩から言われたんだ」


 ルークが赤い顔で囁く。


「気にしなくていいよ」


「それより、お詫びといってはなんだけど、ボクらのパーティと一緒にダンジョンに行かない?」


「……いいよ。でも、あまり深くまでは潜れないから」


「大丈夫、僕たち、五階層より下へは降りないよ。それより下だと税金が掛かっちゃうからね」


 そうだった。

 昨日はその辺、どうなったんだろう。

 まあ、払う必要があれば、なにかギルドから言ってくるだろう。


 こうして、ルークたちと一緒にダンジョンに挑戦することになった。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る