第3部 赤い剣
第24話 嫉妬と罠
結局、ダンジョン一階層のボスには挑戦しなかった。
恐らく俺よりレベルが高いだろうルークたちでも、四人で攻略しているのだ。
いくらなんでも、一人で攻略するのは無理だろう。
スライムとスモールバットを、合わせてニ十匹ほど倒し、ダンジョンから出た。
成果は魔石が八個。ということは銅貨八十枚か。
宿代は、一泊が一人銅貨三十枚、二人で銅貨六十枚。
これに食費やいろいろ入れると、どう考えても赤字だ。
ゴリアテさんから渡されている革袋には、かなりの額が入っていたが、毎日お金が減り続けるというのは、精神上良くないよね。
街で仕事を探すか、ダンジョンの下層に降りるか。
いずれにしても、このままではどうしようもない。
ピュウを肩に、あてもなく街をぶらつく。
やがて、店の柱や看板をオシャレに飾りたてた地区へ出た。
ダンジョン周辺とは違い、歩いている人の服装も華やかだった。
やっぱり中世風なんだよなー、そんな事を考えて歩いていると、思わぬものが目に飛び込んできた。
ひときわ高級そうなレストランの窓越しに、見慣れた猫耳が見えたのだ。
俺はなぜか近くの柱に隠れ、そちらをうかがった。
間違いない、ミリネだ。
ミリネは冒険者風の男女と、テーブルに着いていた。
前の街を出てから一度も見たことがない彼女の笑顔は、俺の心を深く
もしかして、彼女は俺ではなく、そいつらとダンジョンに入るつもりでは?
そう思うと目の前が暗くなった。
とにかく、ミリネの気持ちを確かめよう。
そう決めて、暮れなずむ街をふらふらと宿まで帰った。
◇ ― ミリネ ―
グレンにダンジョン攻略をさせるにしても、まずは情報だ。
宿のおじさんから冒険者がよく行く食事処を教えてもらった。
お昼時、一番込み合う時を狙い、店の扉を潜る。
そこは冒険者たちの喧噪で溢れていた。
幸運にも、ベテランらしい人々と相席になる。
彼らは『赤き剣』という名前のパーティで、男二人、女二人の構成だった。
リーダーのボリスは銀級、他の三人は銅級で、ダンジョンニ十階層から三十階層で活動しているそうだ。
情報を得るにはちょうどいい相手だ。
私が「ミスト」という偽名で荷物持ちとしてパーティに参加させてもらえないか頼むと、二つ返事でひき受けてもらえた。
夕方、貴族街にある店で、パーティ参加のお祝いまでしてくれることになった。
◇ ― ボリス ―
俺はボリス。冒険者だ。
パーティ『赤き剣』のリーダーをやってる。
俺たちには、秘密にしている副業がある。
いや、収入だと、よっぽどそっちの方が実入りがいい。
ダンジョンで出会った初心者、つまり獲物を奴隷商に売りとばす仕事だ。
奴隷商が獲物に奴隷紋を刻む時、俺たちの事は口外しないよう契約に入れてくれてるから、奴隷の口から俺たちの事が洩れる心配はない。
奴隷が解放されたらその限りではないが、そんなことなどめったにあることではないのだ。
この五年ほどでずい分稼がせてもらった。
しかし、そろそろこの商売も潮時だろう。金も十分たまったし、王都にでも出て、何か店でも始めるか。
たまたま、今日網にかかった獣人の小娘を最後に足を洗おう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます