第25話 無謀

 宿に帰ってから、俺は落ち着かない気持ちをもて余していた。

 意味も無く部屋の中をうろついて、ピュウにつつかれたりした。


「ただいまー。グレン、ダンジョンどうだった?」


 だから、ミリネにそう言われても、答えることができなかった。


「なんで黙ってるの? 一階層でしょ? 上手くいかなかった? まさか、一人で二階層に入ったりしてないよね!?」


「ミリネ……あの人たちとダンジョンに行くの?」


「あの人たち? あっ……あんた私のことつけてたの?!」


「つけてない! たまたま見かけただけだ!」


「嘘言いなさい! つけてたくせに!」


「だから、つけてない! それより、あの人たちとダンジョンに行くのか?」


「……行くわよ。それが悪い?」


「悪くないよ。俺とは一緒に行きたくないんだね」


「……そっ、そうよ、あんたみたいな馬鹿と一緒だと死んじゃうもん!」


「そうか……」


 ミリネの気持ちが分かった今、俺にはもうどうしようもない。


「さよなら」


 俺は部屋の扉を開け外へ出た。


「ピュウ」


 いつの間にか、ピュウが俺の肩に留まっている。


「おまえも俺のことが嫌いなんだろう? どこへでも行けよ!」


 宿から通りに飛びだし、肩のピュウを両手で掴み空へ投げあげる。

 ピュウは、頭の上でニ三度円を描くと、どこかへ飛びさった。


 もう、俺には何もない。

 俺の足は自然にダンジョンへ向かった。



 ◇


 一階層のモンスターを蹴散らし、一気にボス部屋の前まで来る。

 すでに夜だからか、部屋の前には誰もいなかった。

 ためらわず、扉の前に立つ。


 ゴリゴリゴリ


 真の闇が口を開いた。

 暗闇の中、何かの羽音を聞いたと思った瞬間、部屋に明かりが灯る。

 壁にはめこまれたクリスタルに火が灯ったのだ。

 空気が揺らめき、三体のモンスターが姿を現す。


 それは人型で、背が低く口が大きかった。棍棒のようなものを手にしている。

 ゴブリンだ。

 普段の俺なら、それを見て大騒ぎするところだが、今はそんな余裕がない。

 ショートソードも初心者用盾も、宿に置いてきてしまったので、日常使いのナイフを腰の鞘からひき抜く。


「うおおおおおおーっ!」


 雄たけびをあげ、ゴブリンに切りかかる。一体目の首を割き、その返り血を浴びながら二体目に肩からぶつかる。

 三体目が振りおろした棍棒が肩に当たる。

 自分が興奮しているせいか、全く痛みを感じない。

 そいつの首もナイフで切りさく。


 体当たりで地面に転がっていたゴブリンの喉を踏みつぶす。

 ゴブリンが三体ともこと切れると、やつらは現れた時の逆回しを見るように宙へ溶けて消えた。

 

 ゴリゴリゴリ


 部屋の隅、床が四角く横にずれる。

 近寄ると階段が見えた。

 二階層に続く階段だろう。


 ゴブリンが消えたあとに現れた、鞘入りのショートソードを手にする。

 鞘から抜いた短剣の刃は青光りしていた。

 宿に置いてきたものより、ずいぶんモノが良さそうだ。

 鞘に戻した剣を腰のベルトに差し、俺は二階層への階段を降りた。 

 

 


 







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