第17話 迷宮都市クレタン
「全く驚いたぞ。ドラゴンが飛び去った後、お前たちが門を叩いた時には。こいつなんか、あの音で腰を抜かしたんだぞ」
茶色い革の鎧を着た四十代くらいの、いかついオジサンが俺に話しかけてきた。
その後ろには、やはり革鎧を身につけた若者が顔を赤くしている。格好からして、二人とも門を守る衛士らしい。
「どうもごめんなさい」
「いや、謝らなくてもいいんだが。お前ら、ドラゴンに気づかなかったか?」
「この
俺は横に立つミリネを指さした。
嘘は言っていないよね?
「そりゃ、大変だったな。私はジンバル。ここの門番だ。宿に泊まるなら私の名を出すといい」
このジンバルさん、とても良い人らしい。
俺たちに同情してくれてるのかな?
「ありがとうございます。俺はグレン、この子はミリ……ミストです」
ゴリアテさんから偽名を使うように言われたのを思い出し、ミリネには適当な名前を考えた。
「しかし、その様子じゃ大変な目にあったんだなあ」
俺ってば、ほとんど裸同然ですからね。
「ええ、森で大きな猪に襲われて」
「フォレストボアか! ありゃ銀ランクの魔獣だぞ。お前たち二人だけでよく命があったな」
「ええ、親切な方が助けてくれたんです」
「そうか、そりゃついてたな」
服がビリビリに破れている俺は、門番さんからローブまで貸してもらい、クレタンの街へと入った。
◇
暗くなりかけた街で、幸運にもすぐ宿を見つけることができた。
門の所にいた兵士さんの名前を出したら、雑貨屋のおばさんが宿まで案内してくれたのだ。
俺たちにぴったりの、安くて清潔な宿の二階、ベッドが二つある部屋に落ちついた。
「ミリネ、どこか痛いの?」
そう尋ねたのは、街に来てからミリネが一言もしゃべっていないからだ。
ベッドに座るミリネは首を振るだけだ。
いつもはおしゃべりなのに、どうしたのかな?
「父さんから……」
お、しゃべった!
「父さんから、家の外ではなるべくしゃべらないように言われてるの」
「え? でも、俺とはしゃべってたじゃない」
「グレンはいいの。でも、他の人とは、あまりしゃべらない方がいいと思う」
うーん、どうしてだろう? 偽名を使うようにっていうのもなにか隠しているのと関係してるのかな?
ミリネはベッドに潜りこむと、すぐ寝てしまった。今日は色々あったから、しょうがないよね。
ベッドに横になった俺は、森で猪を燃やした赤黒い炎の事を思い出していた。ドラゴンママの言う通り、俺に魔力がないなら、あれは誰がやったのだろう?
可能性があるとするとミリネだけだ。あのとき、ミリネはどうしてたっけ? 俺が二匹の猪をひきつけたので、その向こうにいたはずだけど……。
そんなことを考えていると、いつの間にか眠ってしまった。
◇
翌朝、ミリネに叩き起こされた俺は、彼女と一緒に街へ出た。食事がつかない宿屋だから、いずれにせよ外出しなければならなかった。
まだ開いていない店もあったが、屋台に毛が生えたような店がたくさん開いていた。そのほとんどが、食べ物を売っている。
「冒険者は朝が早いから、店も朝早くから開いてるんだよ」
ローブで猫耳を隠したミリネが、小声で説明してくれる。
彼女は、白く小さな肉まんのようなものを二つ買った。
「うまっ!」
「美味しいでしょ。クレタン名物の『迷宮まんじゅう』よ」
白い皮に包まれた具は、肉と野菜が混ざっていて、絶妙な風味となっている。
肉まんや小籠包に似ているが、今まで食べたそういったものの中で、間違いなく一番旨かった。
クレタンの街は、『剣と盾亭』があったテラコスの街よりずっと大きく、朝早くだというのにやたらと活気があった。
家の造りは、木材で作ったものとレンガを積み重ねたものが半々くらいかな。裕福な家ほどレンガを使っているみたいだな。
少し歩くと、やけに人通りが多い場所へ出た。
屋台の数も多いが、道端に布を敷き、その上に商品を並べて売っている人も多かった。商品の種類はまちまちで、武器や盾のようなものから、見たことがない変な形のものを並べている店もある。
「ミリネ、あれは何?」
得体のしれないものを指さし訊いてみる。
「ああ、モンスタードロップね。あれは魔道具かしら」
「も、もしかして、ダンジョンでモンスターを倒して手に入れるやつ!」
「そ、そうだけど!」
「す、すげー!」
「ちょ、ちょっとどうしたのよ、いきなり叫んだりして。恥ずかしいじゃない」
ミリネに言われても、興奮は抑えられない。
一つ一つの店で歓声を上げていると、店の人からだけでなく通行人からも変な目で見られてしまった。
「グレン、あんた……」
「ねえ! ミリネ、見て見て、あの白くて丸い建物なんだろう!」
その建物は、さっき食べた肉まんじゅうにそっくりだった。
「あれがダンジョンの入り口。クレタンが『迷宮都市』って言われる理由ね」
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