第13話 死闘(上)
虫に刺されたかゆさをこらえ、森の中、くねくねと続く道を歩いていく。
「ミリネは、この道を通った事があるの?」
「うん、キノコを採りに途中までならね。そのとき、父さんが、この道をずっと行くとクレタンの町外れに出るんだって教えてくれた」
ゴリアテさんのことを思いだしたのか、ミリネの目に涙が浮かぶ。
話題を変えなくちゃ!
「ミリネ、ダンジョンってやっぱりモンスターが出るんでしょ?」
「もちろん出るわよ」
「どうやって戦うの?」
「父さんの話だと、何人かでパーティっていうのを組んで挑戦するらしいよ」
「パーティ、キターっ!」
「やだ、またそれ? もう鼻血なんて出さないでよ!」
「わかった……。それで、ダンジョンだけど、モンスターと戦うんでしょ」
「そうだよ。でも、一階層だけなら弱いモンスターしか出ないから、きっと大丈夫」
「やっぱり、俺、魔術を習っておいた方がいいよね?」
「ダンジョンに挑戦するならそうかもね」
「じゃあ、先生、よろしくお願いします」
「あそこに倒れてる木まで歩いたら、食事にしよう。その後で教えてあげる」
「よーっし、頑張るぞー!」
◇
「木立の中で火は使えないから、今日は水魔術ね」
ミリネはそう言うと、袋の中から金属製のカップをとり出した。
カップは銀色に輝く金属でつくられており、とても美しかった。
次の瞬間、そのカップに水が溜まった。
「以前、火魔術の時に言ったように、この辺りに温かいものがあるでしょ、それをキューっと手の方へ動かして、ポンって感じで出すよ」
彼女はそう言うと、左手で自分のおへその辺りに触れた。
「ちょっと待って! それって、君が火魔術の時に教えてくれたのと一緒じゃないの?」
「ええ、そうよ。だって、火魔術も水魔術も、属性は違っても魔術に変わりないから、その辺は同じ感覚でしょ?」
あーっ、今、この
感覚で魔術つかってるから、人に教えられないんだね。
こうなりゃ、しょうがない。ミリネには期待せず、自分で試していこう。
「きゅーっ、ポン。きゅーっ、ポン。きゅーっ、ポン……先生っ! これ、呪文とか本当に要らないんですか?」
「要らないよ。さっきの見てたでしょ?」
「でも、ラノベなんかだと――」
「ラノベってなに? 無駄口叩いてないで、練習して!」
「は、はい」
しかし、何度「きゅーポン」しても、水の一滴すら出なかった。頭の中で、水が出るところをはっきりイメージしてもダメだった。
くーっ、これってストレスたまるーっ!
その時、俺たちが座っている倒木の背後にある繁みがカサリと音を立てた。
「な、なにっ!?」
ミリネが俺の腕にぎゅっと抱きついてきた。尻尾が凄く太くなっているね。モフモフしたい。
俺のイケナイ妄想を見透かしたかのように、猪に似た大きな獣が跳びだしてきた。
目を赤く光らせ、ゆっくり近づいてくる。下アゴから上向きに突きだした、白い牙の先端がギラリと光った。
「フォ、フォレストボア!?」
ミリネが叫ぶ。
「ミリネ! 魔術で攻撃して!」
「でも、私、生活魔術しか……」
「火でも水でも、とにかくぶつけて!」
「や、やってみる!」
パチャ!
猪の顔で水が弾けたが、ヤツは顔をぶるっと振るうと、そのまま近づいてくる。
その鼻先がミリネに向いている。
しまった!
中途半端な攻撃で、ミリネが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます