第4部 死闘

第12話 旅


 ミリネの靴を買うと、ついでに食べものと飲みものを手に入れてから、俺たち二人は街を出た。

 ゴリアテさんから渡された袋には、フードつきのポンチョっぽい服が入っていたので、ミリネにはそれを着せてある。

 街の東門を潜り、外へ出る。

 石造りの壁に囲まれた町からは、草原を通る道が続いている。


 ゴリアテさんから言われたとおり、俺たち二人は、街道を少し歩くと脇道へ入った。

 道幅が広く人通りがあった街道と違い、脇道は馬車だとすれ違えないほど細く、道行く人の姿もちらほらと見られるだけだった。

 道が白っぽい木々の林に入るころには、人影も途絶えた。

 

「グレン、私、お腹空いちゃった」


 そういえば、お昼ごはんも食べず歩きどおしだったもんね。

 俺たちは、林を少し入ったところにある倒木に腰掛け、買ってきたものを食べた。


「うわっ! なんだこれ!?」


 リンゴと思ってかじった果物は、むちゃくちゃ酸っぱかった。


「どうしてリンゴンなんて買うのかなあって思ってたのよ。それは調理しないと美味しくないからね」


 リンゴン! 名前まで紛らわしいわっ!

 

「ミリネ、買う前に言ってよ!」


「そんなの知らないわよ!」


 ミリネの猫耳がピンと立ち、シッポが少し太くなっている。

 どうやらご機嫌斜めのようだ。


「だけど、どうして、ええとなんだっけ、グラタン? 急いでその街へ行かないといけないのかな?」


「クレタンよ、理由は……分からないわ」


 おーい、今のはなんですか、あなた何か知ってますよね?

 まあいいか。話してない事、俺もたくさんあるし。


「クレタンって、どんな所?」


「あそこは迷宮都市として有名ね」


「ちょ、ちょっと待ったー! 今、なんて言った?」


「グレン、なに興奮してるの? クレタンは、迷宮がある街として有名よ」


「ミリネ様、迷宮ということは、もしや……」


「ダンジョンがあるよ」


「はいっ、ダンジョン、キター! うはー、愉快なダンジョン♪ 素敵なダンジョン♪ みんなダンジョン♪ ふーっ!」


「ちょ、ちょっと、どうしたの? なんで、鼻血出してるの?」


「あ、ホントだ! こんなのは、そこら辺に生えている草をぺいっとちぎって、ふんふぇふぃれららおっへー!」(ふんって入れたらオッケー!)


「ナニ言ってるのか分からないけど。ダンジョン、そんなに興味があるの?」


「はひー!」


「じゃあ、クレタンに行ったらダンジョンに入ってみる?」


「ふぅおー!」


 叫んだ瞬間に、詰めていた草の葉が鼻からポンと飛びだし、どばっと鼻血がでた。


「あっ、あんた、なにやってるの!」


 こうして俺たちの旅が始まった。


 ◇


「うわっ! かゆいーっ!」


 目が覚めてみると、蚊に刺されたような痕が手と足にたくさんあった。

 しかも、そのかゆさときたら、蚊の百倍はあろうかというもの凄さ。

 昨日、森の中で寝たらこうなっちゃったんだ。


「ひいーっ!」


「あっ、それかいちゃうと、痕が残るわよ」


「ミリネはどうして平気なの、かいかいかいーっ!」


「だから、かくなって言ってるの! それ、森や林にいる『ちみ虫』ってやつに刺されたんだね。ちみっこいから『ちみ虫』って言うんだよ。だけど、この『香りの木』の下で寝ると刺されないの」


「どうして教えてくれないの! かいいいーっ!」


「だって、そんなの常識だもん!」


 しょうがない、そろそろ本当の事、言っちゃうかな。さあ、聞いて驚け!


「俺、異世界から来たから、この世界の常識なんて知らないもん!」


「ばかねえ、そんな冗談言って。魔術も使えないのに、『迷い人』のはずないでしょ!」

  

 信じてもらえてない! それに、マヨイビトってなに?

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