14 相棒 -バディ-

 打ち返そうにもハンマーは手元にない。

 アルミは、せめて2人の兄妹だけでも守ろうと、隕石メテオに背を向けて突き飛ばす――――。


 落下した隕石は、弾け飛ぶ地面と共にアルミを、放り投げた人形のように吹き飛す。 

 地面がパラボラ状に広がると、皿の形はすぐに崩れて砂の雨が降り注いだ。


「大変だ……アルミ!?」

 

 僕は倒れたアルミへ駆け寄る。

 横たわる彼女は、吹き飛んだ拍子にポニーテールがほどけて、髪が無操作に広がっていた。

 肩まで伸びる金の髪は、砂と泥で光沢を失う。

 怪獣のイラストが描かれたピンクのTシャツも、チュチュのようなスカートと黒のレギンスも、落ちた隕石の衝撃と吹き飛ぶ砂利で、ボロボロに破れる。


 突き飛ばされたアトムとウランの兄妹が、駆け寄って倒れたアルミを、泣きながら揺さぶる。


「アルミ!」「アルミお姉ちゃん!」


 幼い兄妹に揺さぶられ、地面に横たわる彼女は目を覚ました。


「ウ……ラン。アト……ム……」


 アルミは風船のようにフラフラ浮き上がる手で、幼いウランの頭をなでながら、横で泣きべそをかく兄のアトムを叱ろうと声を振り絞る。


「アトム…………あんた、お兄ちゃんでしょ? 妹を守んなきゃダメなだから……泣くんじゃない……」


 生意気なアトムは顔を、涙と鼻水でグチャグチャにしながら強くうなずく。


 今は僕も泣きたくて身体が震える。

 無理だ。隕石を打ち慣れたアルミですら、あんな大ケガをしたんだ。

 ハンマーを握る両手の震えが治まらない。

 手の平が汗をかいて気持ち悪い。


 お母さん、僕はどうしたらいいのか解りません。

 もう無理だ。僕達は、ここで死んじゃんだ。

 お母さん、ごめん。

 もう仕送りは出来ない。

 手紙も出せない。

 家に帰ることも、出来ないよ。


 アルミは定まらない視線を、僕になんとか合わせながら、すり切れた声で何かをうめく。

 

「あ――――だけ――――だか…………」


 声量が足りず聞き取れない。

 こんな時にまで、怒られなきゃならないの?

 恐る恐る彼女の顔に耳を近づけ、聞き取ろうと努める。


「あんただけが…………頼りだから――――相棒バディ


 聞き取った言葉は、僕の頭を覆う曇り空を嵐のように吹き飛ばし、まっさらにしてしまった。

 その言葉を最後に、彼女は気を失う。

 ひな鳥のようなウランが、泣きながら身体を揺らそうが大げで叫ぼうが、目を覚まさない。


 こんな最悪の中、アルミは街に来て3日、昨日今日、流星打ちになった僕に後のことを任せると言った。

 無茶だ。無理なのは彼女も解ってるはずだ。

 でも、自分でもびっくりする。


 ――――誰かに頼られることが、こんなに勇気をくれるなんて――――

 

 今、自分が両手で持っている仕事道具ハンマーを、僕は強く握りしめた。

 僕の中で、荒波に立ち向かう覚悟が決まった。


 空を切る音が頭上で広がると、顔を上げる。

 赤黒い雲を掻き分けて落ちて来る、不気味な流星の群れ。

 いつまでもこだまする、太鼓のような音を響かせ落下してくる。 

 

 来い来い来い!

 全部打ち返してやるぞ!


 とは言っても、次第に近づき膨らむように大きく見える巨岩を前に、恐怖が押し寄せ腰が引けてしまった。

 とっさに落ちる隕石から目を反らす。


 駄目だ――振り切れない!


「やっぱり、無理ぃぃいい!!」


 ハンマーは振ったものの、落下物から逃げるように先端の鉄球が空振りする。

 炎の矢が飛んで来たように、天空から隕石メテオが一直線に落ちた。


「うわぁ!?」


 驚いてハンマーを手から離してしまう。

 手前に落ちた流星は、地面をパラボラ状に吹き飛ばし、あられのように降る砂利をかぶった。

 砂利から身体を守ろうと、僕はピスヘルメットを押さえてしゃがんだ。

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