13 え? ホントに逃げてイイの? 

 顔を上げると、天空から迫りくる隕石にひるんでしまい、身体が動かない。

 石のように動けない僕の視界を、ハンマーが横切る。

 僕が持ってるハンマーじゃない。

 風圧を感じる間もなく、飛び出たハンマーは隕石を打ち返した。


 ハンマーの鉄球と隕石のぶつかる音が、僕の鼓膜を鋭く刺して脳みそを荒っぽく揺らす。

 打ち返したハンマーの持ち主をに目を移すと、怒りで今にも噴火しそうなくらい顔の赤いアルミが睨んでいた。


「何ボサっとしてんのよ!? 打ち返せないなら、どっかに逃げてろ!」


「え? ホ、ホントに?」


 1秒でも早く、こんな危険な場所から逃げたかったから、アルミの言葉を本気にした。

 流星打ちの先輩が言うんだから、言うとおりにした方がいいはず。

 僕はアルミに申し訳ない気持ちを伝えつつ、後退り。


「じゃぁ、ごめん。僕は先に逃げて……」


「ホントに逃げるな! あんたも流星打ちなんだからハンマーを振れぇ!!」


「ウウ、ウソ! ウソです! ハンマー振ります」


 逃げていいって言ったじゃん!

 一頻ひとしきり突風のようにハンマーを振り回すアルミを、横目で見て顔色をうかがう。

 

 アルミの様子がおかしい――――――――彼女のスカッシュに勢いが無い。

 打ち方も、片手から両手ハンマーを握って、打ち返す姿に変わった。

 腕がしびれたのか、ハンマーを振った後、震えている。


 彼女が振るハンマーに弾かれた隕石が、後方を逃げるアトムとウランの方へ飛んで行った。


「しまった!」


 再びアルミはハンマーを地面に向けて叩きつけ、身体を浮かせジャンプ。 

 幼い兄妹の頭上で、弾かれた隕石メテオへ追いつき、空中で片腕を伸ばしハエでも叩くように、ハンマーの先で隕石を払う。

 隕石は建物の壁へめり込んだ。


 着地に失敗したアルミは、アトム、ウラン兄妹の逃げ道を塞ぐように転がり落ちた。

  

「アルミ!」「アルミお姉ちゃん!」


 目の前から降って来たアルミに、駆け寄る幼い兄妹。

 彼女から離れた僕は、1人じゃ何もできないから慌ててアルミの側に駆け寄り、安全圏に入る。

 でも今の流星打ちの先輩には、その安全が約束できるようには見えなかった。


 じゃじゃ馬アルミは起き上がり、通せんぼするように両手でハンマーを突き出す。

 落ちて来た隕石メテオをハンマーの棒に当てて弾くと、彼女は糸が切れた人形のように両手を下ろした。

 アルミの額から吹き出すように汗が流れる。


 そうだ、様子がおかしいのは当然だ。答えは簡単。

 アルミと一緒にいれば、そんなのすぐ解る。

 彼女は疲れて・・・いるんだ。

 さすがのじゃじゃ馬娘も、朝から晩まで重たいハンマーを振り回してるんだから、身体がツラいに決まってる。

 自分の限界が迫ることに焦ったアルミが、2人の兄妹に怒鳴る。


「早く逃げて!」


 子犬のように、ウランが泣きながらしがみつく。


「アルミお姉ちゃんも逃げよ!?」


「ウラン。流星が止んだら、またお姉ちゃんと会えるから。ね?」


 ウランを引きはがして、流星に目を戻すアルミ。

 彼女が腕の痺れを我慢してハンマーで隕石を打つと、手からすり抜けたハンマーが隕石ごと、火事の家に飲まれっていた。


 じゃじゃ馬娘の顔が唖然とする。


 流星は空の上だと大きさが解らず、全部豆粒くらいに見える。

 その大きさに気付くのは決まって、落下する寸前。

 サッカーボールよりも一回り大き隕石が、彼女の目の前に着弾した。


「アルミィ!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る