2 星の降る街

 死んぬんだって思ったら、怖くなって身体を屈めた。

 すると、背中を地面に押し付けられる感触と共に、何かが風を切って追い越す。


 僕の背中を、誰かが馬跳びで越えたのが解った。


 そのすぐ後――――金属の乾いた音が聞こえる。


 カキーーーーンッ。


 隕石メテオを遠ざけた音だと解り、僕は顔を上げる。


 花のくきのような細い腕に握られた、鉄球つきのハンマー。

 逆光で見づらいけど、男の僕でも憧れるような立ち姿の女の子。

 金髪のポニーテールを荒馬のように振って、こちらを向くと、空気を震わせるほどの声で怒鳴る。


「目をつむるなぁ!」 


 ブルブル震える空気が伝わると、身体が強張り立ち上がった。


「つ、つむるなって言われても、無理だよ――――アルミ」


 砂の大地特有の日差しで焼けた、褐色の肌。

 翡翠ひすい色の瞳を持つ彼女の名前は、アルミ。

 歳は僕の1つ上の14歳。


 僕が降ってくる隕石から防御する為、ピスヘルメットや厚手のジャケットを装備しているけど、彼女は逆に薄手の服装をしている。


 ピンクのTシャツとチュチュのようなスカート、黒のレギンスにバッシュ。

 彼女は片手で持ったハンマーを肩に乗せると、

 胸に描かれたピンクのTシャツは、女の子に流行りの目と牙をむき出しにした怪獣のイラスト。 

 その怪獣の顔よりも怖い顔で責め立てる。

 

「最後まで降ってくる隕石を見とかないで、どうやってハンマーに当てんのよ?」


「そうだけど……危ない!!」


 アルミの後ろに隕石メテオが向かって来る。

 後、5メートルくらい。

 このままだと頭に当たって、アルミが死んじゃう!


 彼女は振り返りながら、片手で背丈と同じ長さのハンマーを振りかぶる。


 隕石は彼女のハンマーに当たって、空へ押し戻された。

 圧倒されて僕は「すごい」としか言いようがない。


 僕と相棒バディを組む、アルミのヒットフォームは「スカッシュ」

 けど、アルミの凄さはこれだけじゃなかった。

 彼女は得意気に言う。


「ここから面白いわよ?」


 打ち返された隕石は、続いて降ってくる隕石に当たる。

 アルミが跳ね返した隕石は、ジグザグに飛んで落下する流星を、次々に弾き飛ばしていった。

 まるで青空のピンボール。


 すごい! イナヅマが、空を駆け上がってるみたいだ。

 ピンボールみたいに当たった流星群は、花火のように火の粉飛ばして砕ける。

 今はお昼だけど、夜だったらキレイだろうなぁ……。


 アルミの仕事ぶりを見せつけた後、こっちを向いて一言。


「ほら、やってみな?」


「やってみなって言われても、すぐには……」


「いいから、構えて!」


「は、はい!」


 彼女の怒鳴り声に驚いて、ハンマーを構えた。

 空を見上げると、隕石から吹き出す煙で空は灰色に染まっる。

 灰色の空をぶち抜くように、火の玉が顔を出し真っ直ぐ僕の方へ落ちる。

 隕石メテオを最後まで見ようと、無理矢理目を見開く。


 早い――――スゴく早い。

 しかも燃えてるし!

 ていうか、あんなのに当たったら死んじゃうっ!?


「ごわいっ!」


 足の力が抜けてハンマーを肩から降ろすと、隕石は頭に当たる。

 サッカーボールよりも大きい塊が、僕のかぶるピスヘルメットをかすめて跳ねた。

 ヘルメットにあった衝撃でって痛い。

 

 そのまま尻もちをつくと、後ろで金属を叩くような音が響く。

 アルミが跳弾をハンマーで打ち返して、また空へ押し戻す。


 地面にへばりつく僕を見た彼女は「もう、いい」と、呆れてしまう。


「やっぱり、すぐには無理だよ」


「次、打てなかったら、ハンマーで頭をぶっ叩いて空まで飛ばすわよ?」


 鉄球でピスヘルメットを小突く。

 彼女は日差しを手でさえぎりながら、天を仰いだ。


「晴れたみたいね。よし! これで仕事は終わり」


 煙で覆われた灰色の空は風で流され、元の青空を取り戻した。

 それを見届けたアルミは、回れ右をして歩き出す。

 その後を慌ててついて行くと、彼女は何やら思い出し笑いをして肩を震わせた。


「それにしても……『お母さーん』て、ウケる!」


 揺さぶる金髪のポニーテールがバカにしてくる。

 僕は恥ずかしくて燃えそうなくらい、赤くなった顔を伏せた。

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