第9話 和樹の家の秘密 3
2人はしばらくピアノの音を聴いていたが宝物を埋めてから考えることにした。
和樹はブロック塀に背をつけて置いてある物置小屋からスコップを2つ出して1つを美久に渡した。
「宝物を埋めるのは木の下がいいみたいなんだ。どこに埋めたかわからなくなるから。」
「ふうん。宝物はいつまで埋めておくの?」
「いつまででもいいけど‥、美久ちゃんいつまでがいい?」
「うーん、大きくなった時?」
「18才とか20才とか?あ、僕たちの結婚式の日は?」
「うん!そうしよう!和樹くん頭いい!」
2人は桜の木の裏側に穴を掘ることにした。
ところが結構桜の木の根が邪魔な上に土が硬くて難しい。
「うーん、ここ硬いからダメかもね。
美久ちゃん、僕が前に試しに掘った所はわりとすぐに掘れたからそこにする?
あー、でもそこら辺は地面からピアノの音が聴こえるからどうかなぁ?」
「うーん、どうしよう‥か、あれ?和樹くんちってドアがたくさんあるの?玄関も2つとピアノ教室の出入り口と裏口が3つもある?」
美久は桜の木の横にある隣家との仕切りのブロック塀に寄りかかって和樹の家の方を眺めていたらブロック塀よりの1番端にドアがあるのを見つけた。
「あー、あれは多分お婆ちゃんちの勝手口だよ。使ったことないけど‥。」
「ふうん。お庭が広いからだね。」
「あそこは、あんまり使わないはずだから、あの辺に埋めようか?ほら、木の下とかだと木を切ったりした時に見つかっちゃうかもしれないし。」
「うん、いいよ。」
2人は勝手口の横にある植木鉢を動かしてその下に穴を掘り始めた。
穴を掘り始めてすぐに地面からピアノの音が聴こえて2人は手を止めた。
さっきより近くに聴こえる。
今度はさっきと曲が違う。
「聴いたことある曲だ。お婆ちゃんちにもピアノがあるけど、お婆ちゃんはこんな難しい曲は弾けないからお婆ちゃんじゃない。」
「お客さんが来てるんじゃない?」
「見てくる。」
和樹はそう言ってドアをドンドンと叩いて
「お婆ちゃん!お婆ちゃん!」と大きな声をかけた。
何の応答もない。
2人は諦めて地面から聴こえる小さなピアノの音を聴きながら穴を掘り始めた。
幸い土は木の根も無いし柔らかかった。
その代わり土の中からケラやミミズが出て来たので30cmくらいの深さまで掘った。
気のせいか掘る度にピアノの音がよく聴こえる様な気がして小学3年生にとっては地下に小人が住んでいてピアノを弾いているという事でもいいような気がしてきたのだった。
30cm程掘った所でスコップが何かにカツンと当たった。
「あれ?これ何だろう?水道管かな?」
和樹がカツン、カツンと管を叩いてみた。
「水道管ってお水が家に届くやつ?」
「うん、でもお水入ってないような音がする。空っぽの音。」
「へぇー、和樹くん物知りだね。」
美久も管をスコップでカツンカツンと叩いてみた。
「私、よくわかんないや。」
その時、2人はさっきからずっと鳴っていたピアノの音が止まっていることに気がついた。
「ピアノが‥」
地下に住んでいる小人を怒らせたのではと顔を見合わせて固まってしまった。
「どうしよう、スコップで管を叩いたから怒ったんじゃない?」
「に、逃げよう!」和樹が小さな声で素早く言った時、
ガチャリ、とドアが開く音がした。
その音に驚いて和樹は慌てて美久の服を掴んで立ち上がり駆け出そうとしたが、美久は驚いて腰が抜けていて立てず、尻餅をついた。
和樹は美久の肩あたりのブラウスを引っ張ってしまったが美久が立ち上がれなかったので、手からブラウスがスルッと抜けて前につんのめってこけてしまった。
「もう、ダメだ!」心の中で2人は叫んで目を閉じてしまった所で、
「君たち、何をしているの?」
と男の人の声が聞こえた。
驚いて声の方を見ると優しそうな男の人が微笑んでこちらを見ていた。
「え?おじさんは誰なの?」
和樹は相手が人間だと分かってホッとしながら立ち上がった。
「僕はこの家の者だがね。君たちは誰だい?あー、もしかして‥。」
とおじさんは考え始めた。
和樹は驚いて
「僕はこの家に住んでいる近藤和樹です。おじさんは、お婆ちゃんの知り合いですか?」
「おー、そうだ、和樹か、こちらのお嬢さんは?」
「お友達の美久ちゃんだよ。」
「そうか、そうか、僕はね、近藤昌孝というのだよ。和樹の大叔父になるのかな。ここ、このドアが僕の家だ。」
「え?大叔父って?」
「僕はね、和樹のお婆ちゃんの弟なんだよ。ピアノを弾いていたら、カツンカツン音がするから何事かと思って見に出てきたら2人とも寝っ転がっているから驚いたよ?」
「おじさん、ここに住んでいるの?知らなかった。びっくりだ。」
と和樹は美久を引っ張って立たせようと思ったけれど美久は腰が抜けてなかなか立ち上がれなかった。
「おやおや、2人とも砂だらけだ。どうだい?僕の部屋でお茶でも飲んで休憩して行っておくれ。」
昌孝は美久を抱き上げるようにして立たせてくれた。
2人は服についていた砂を叩き、昌孝の部屋について行った。
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