第8話 和樹の家の秘密 2

 二人で結婚できますようにと水晶石にお願いした後、ふふふと二人で照れていたら、コンコンとノックの音がした。


「和樹!入るわよ。」と母親の妃織が缶ジュースとお菓子をカゴに入れて持って来た。

 美久は慌てて

「こんにちは。」と挨拶をした。


「美久ちゃんいらっしゃい。和樹、良い季節だからベランダかお庭に出て食べたら?」

 和樹の母親は優しそうな笑顔でおやつのカゴを和樹の机の上に置いて

「美久ちゃん、ゆっくりしていってね。」と言い部屋を出て行った。

 美久が

「お母さん、優しそうでいいな。」

と言うと和樹は

「うーん、優しそうに見えるけど、そうでもないと思うよ。僕、しょっちゅう怒られてるし。」とまだ廊下にいるかもしれない母親に聞こえないように小さな声で言った。

美久もつられて小さな声で聞いた。

「ねえ?和樹くん、秘密って何?」


「僕ね、気が付いたんだよ。実はピアノがもう1台この家には隠されているんだ。あ、家じゃなくて庭に。」


「え?庭にピアノがあるの?漫画の『ピアノの森』みたいなの?」


「違う、違う。それがピアノが見えないのにピアノの音が地面から聴こえてくるんだ。」


「え?ピアノが埋めてあるの?」


「そうかも。美久ちゃん、宝物を埋めたら一緒に調べてくれない?僕この間、庭で宝物を埋める場所探してたんだ。試しにスコップで少し掘ってたらピアノの音が聴こえたんだよ。」


「うん、いいよ。一緒に調べる。不思議だね。」


 近藤家の裏庭は町中にある公園程度の広さがあり奥まで行くと突き当たりにはシラカシの木で土地を囲ってある。

シラカシの向こう側は緑色のフェンスで土地を区切ってありフェンスの向こう側は道路に面していた。

目隠し用の手入れされたシラカシの他に庭の隅には大きくなりすぎた2本のシラカシの木とその横に、これも庭にあるにしては大きいイチョウの木が2本、栗の木が1本、この大木たちが庭を森の様な感じにするのに役立っていた。

他にも梅や桜、柿や枇杷など、これらも一昔前に植えられたものがかなり大きくなっていた。

家を建て替える時に、あえて子どもたちのために裏庭に残したものだった。


玄関側の庭は定期的に庭師によって手入れされていたが、裏庭は子どもたちの自然の遊び場として一年に一回だけ日当たりや風通しを考えて木々の剪定せんていがされていただけだった。

 

2人は玄関から出て家の壁を東側へ回って母親のピアノ教室の出入り口の前を通って裏庭へ来た。


美久が

「わぁ、ブランコ!あ、鉄棒もあるんだ!」と言うと和樹が「押してあげる!」と言い美久をブランコに座らせた。

ひとしきりブランコを押した後に和樹は鉄棒で逆上がりを始めた。

美久もブランコから降りて一緒に逆上がりをして、辺りを見回した。

「すごーい!広いお庭だね。どこに宝物埋めるの?」


「それはね!こっちー!」

和樹が鉄棒からするりと降りて宝箱とおやつのカゴを持って庭の端に向かって走り出した。

美久も慌てて鉄棒から降りて追いかけた。


和樹は祖父母側の庭の方へ走り隣家との境にあるブロック塀まで来て

「1番!」とクスクスと笑って言った。

美久は「あ、ずるーい!でも美久も2番ならいいや。」とつられてクスクスと笑った。


「ここら辺に埋めるの?ピアノの音がするのもこの辺りなの?」

「うん、そうだよ。あれ?」

「何?」

「美久ちゃん聴こえない?ピアノの音がする。」

「‥‥。」

2人はしばらく耳を澄ました。


「ピアノ教室から聴こえる音じゃない?」

美久がそう言うと

「しーっ!ほら地面から聴こえる。」

和樹は膝をついて地面に耳を当てた。

美久も同じ様に地面に耳を当ててみた。

「あ、ホントだ!」

「ね、聴こえるでしよ。なんでかな?」


「地面の下に小人が住んでてピアノを持ってるとか?」

「小人って本当にいるの?」

「だって‥。地面から聴こえる‥。」


2人はしばらく黙ってピアノの音を聴いていた。


「この曲、僕知ってる。ピアノの森で最初に流れるカッコいい曲だ」

和樹がささやくように言った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る