第10話 昌孝大叔父 1

 祖父母宅の勝手口だと思っていたドアは大叔父の家のドアだった。

 大叔父についてドアの中に入るとやはり勝手口のような作りで玄関と言うには無理があるほど狭い。


「お邪魔します。」と2人は初めて会った大叔父に遠慮しながら、でも好奇心いっぱいに部屋に上がった。


 玄関を入ると直ぐに小さいテーブルとイスがあった。

 イスは一脚しかない。


 そこを通り抜ける時に小さいキッチンがあり、キッチ

ンで砂だらけの手を洗わせてもらい、そこを抜けると大きな部屋にベットと座卓とタンス、テレビがあった。

「あれ?おじさん、ピアノがないよ?」

 和樹はさっき大叔父がピアノを弾いていたと言ったはずなのにと不思議だった。


「ああ、ピアノは地下室にあるんだよ。そこのドアから降りてみてごらん。僕は紅茶を入れてあげよう。」

 大叔父がそう言うので2人は、部屋の隅にある重いドアを開けてみた。

 ドアを開けると、すぐに下り階段があり2人はワクワクしながら降りて行った。


 階段の下にまた重いドアがありそこを開けると中には大きなグランドピアノが一台置いてあった。


「うわぁー!」2人は地下室があるだけで驚いたのに、こんな立派な部屋とグランドピアノが有ることに驚き興奮した。

 壁一面が本棚になっていて楽譜の棚、書籍の棚、レコードの棚、CDの棚、オーディオ機器の入った棚に綺麗に整理されて置かれていた。


「すごーい!ねえ。窓が無いね。」と美久が言うと

「地下室だから窓あっても開けられないよ。」

 と和樹が言いながら、ピアノの蓋を開けてみた。


「勝手に弾いちゃダメなんじゃない?」

 和樹は美久の言葉で直ぐに蓋を閉めた。


「このピアノ、スタインウェイだ。」

 母親のピアノ教室にある左側のピアノと同じだと気がついた。母親は生徒には右側のヤマハを弾かせる。


「スタインウェイ?」

「高いピアノみたいだよ。」

 和樹は自分で弾くとどんな音がするのか気になって


「僕、おじさんにピアノ弾いてもいいか聞いてくる。」

 と階段を駆け上がって、すぐに降りて来た。

「弾いてもいいって!」


 和樹は練習中の子犬のワルツを弾き始めた。


「和樹くん、すごい!」美久はどうしたら指がこんなにも素早く動くのか不思議でならなかった。


「あー、もういいや。」

 和樹は中間部の左手がわからなくなり、つっかえたところで弾くのをやめた。


「美久ちゃんも弾く?気持ち良くなるピアノだったよ。」と和樹が立ってイスを勧めると

 美久は指でポンと2つ3つ鍵盤を押した後、

「うん、弾こうかな。」と言ってインディアンの太鼓を弾いた。

 地下室だと外にほとんど聴こえないとわかっているので遠慮なく大きな音で気ままに弾いた。


「間違えずに弾けたね、いい音で気持ちよかったでしよ?」と和樹に言われ美久は「うん、いい音で良いピアノだった。」と音が良いかはよくわからなかったけれど気持ち良かったのでそう返事を返した。


「おーい!お二人さん!」

 遠くで大叔父の声が聞こえた。

 上の防音のドアを開けて大声で呼んでいるのがわかったので2人は

「はーい!」と大きな声で返事をして一階に上がって行った。


 小さな座卓の上にお洒落なティーカップが3つ用意してあった。

「君たちは何年生?」大叔父は紅茶を注ぎながら聞いた。

「3年生です。」2人は声を揃えて言った。

 小さな座卓の周りに3人が座ると和樹は

「あ、これ今日のおやつ!」

 とカゴからクッキーの小袋とポテトチップの袋を出して座卓の上に置いた。


「おお、いいね、僕も頂いていいかな?」


「はい!」


 大叔父はあぐらで座ったまま、側にある細長く小さな食器棚の下の部分を開け平いお皿を出してそこへお菓子を出した。


「さぁ、いただこうかね。」

「いただきます。」


 おやつを食べながら、和樹は大叔父にいろいろと質問した。

「どうして、外で僕たちがスコップで管を叩いたのがわかったの?」

「ああ、ピアノ室は地下にあるから換気扇が付いているんだよ。窓が無いから空気の入れ替えをするためにね。

地下から大きな管を伸ばして地面の下を通ってどこか外と繋がっているはずだよ。換気扇からカツン、カツンと聞いた事ない音がしたからびっくりして外に出てみたら2人が倒れていたんだ。どうして倒れていたんだい?」

 2人は顔を見合わせて笑った。

「だって僕たち、地下で小人がピアノを弾いていると思って‥、管を見つけて叩いたらピアノの音が止まって小人が怒ったと思ったんだよ。そしたらガチャってドアが開いて小人が出て来たから逃げようと思ったらこけちゃった。」

「私は怖くて立てなかった。」

 3人は可笑しくなって笑った。

「美久ちゃん、引っ張ったのに立たないから僕すべって、ふふ、面白かった!」

「小人じゃなくて残念だったね?」

「叔父さんで良かったー!」

「小人が出て来てたら絶対怖くて泣いてた。」


 3人はお菓子を食べながら他にもいろんな話をして紅茶を飲んで楽しく話をして過ごした。


「おじさん、また来てもいい?」


「ああ、いいとも。僕は久しぶりに子どもと話をしたよ。楽しいもんだなぁ。」


「おじさんのピアノすごい気持ちいい。また弾いてもいい?」


「ああ、いいとも。おじさんは暇なんだ。いつでも弾きに来ていいさ。でもね、ここに来ている事は内緒にしておくれ。和樹のお婆ちゃんはうるさいんだ。小言ばかり言うからね。」


 和樹と美久は

「うん内緒にするし、絶対にまた来る!」と言い和樹が

「約束!」と言って小指を出した。


 美久も大叔父も小指を出して、大叔父の太い小指に子ども2人は自分の小指を巻き付けた。


 そして、指切りげんまんの歌を歌い、「指切った!」で小指を離すと誰からともなく『ふふふ』と柔らかい笑い声が出てそれが妙に可笑しくって3人は、ふふふ、ふふふ、あはは、あははは、と段々と大きな笑いになっていた。


 秘密を持った3人はもう仲間になっていた。

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