第19話 恋愛講座初級編


ルカが魔界でダークエメラルド方面隊として仕事をする少し前…



ルカとデートを終えた灰田の心は揺れ動いていた。



そう下町の水族館デートを終えて、お好み焼きを食べたあのデートの後の話だ。



あの後真凛ちゃんにそのデートの内容をラインにて報告した。



それに対して真凛ちゃんからは二通に渡り、お叱りのラインが返信された。



『二人の進展のためにはまず、灰田さんがルカさんを受け入れることにあるのではないかと思います。

ルカさんが好きなことを受け入れられないなら、交際すべきではないと思います。

ルカさんは灰田さんのオモチャじゃありませんよ?』



『灰田さんは自分の思い通りにしようとするきらいがあります。女の子の気持ちが分かっていません。今度私が直接御教授して差し上げます。』



これまでの丁寧な文体は変わっていないが、何故か強気な真凛ちゃんの態度に、僕は少し面食らってしまう。



そもそも僕はルカちゃんに心が動きかけている。そこで真凛ちゃんと会うのはどうなんだろう…



そう思うが結局…



『是非!お願いします!いつにしますか!?』



結局は、誘いを受けてしまっていた。



☆ ☆ ☆


真凛ちゃんと会う日。



僕は少し緊張していた。



ここ最近の真凛ちゃんは少し不機嫌な様子だったし、今日もまた怒られるんじゃないか。



そんな心配からただならぬ緊張感が全身にまとわりついていた。



18時。



約束の時間ちょうどに真凛ちゃんは現れた。



「お待たせいたしました。」



真凛ちゃんは秋らしいブラウンのフレアスカートに黒のニットといういつも通り大人なファッションで登場した。



「全然待ってないです!では行きましょうか。」



僕らは前回も一緒に行った個室の居酒屋へと足を運んだ。



相変わらず店内にはジャズが会話を邪魔しない程度の音量で流れていて、薄暗くムーディな雰囲気が漂っていた。



「いらっしゃいませ。」



僕とそこまで変わらない年くらいなのに、大人な雰囲気がある店員さんが挨拶をしてくる。



僕は二度目にも関わらず緊張していた。



大人な店員さんに案内され、僕らは席に着く。



「真凛ちゃんなに飲みます?」



「んー、ピーチウーロンにします。」



「じゃあ、僕は…モヒートにしよっかな。」



あ…またイキってしまった。



注文を店員さんに告げ、飲み物が来るのを待つ。



「そういえば…ラインでお話伺いましたが、ルカさんとデートされたんですよね?

その辺詳しくお聞きしても良いですか?」



遂に真凛講師による恋愛講座初級編が幕を開ける。



僕は前回のデートの内容をラインで伝えたのより詳しく鮮明に、真凛ちゃんに伝える。



女の子相手にデート内容を自ら語るというのは非常に恥ずかしいものだったが、真凛ちゃんは真っ直ぐにこちらを見ているため躊躇する事も出来なかった。



「なるほど。ラインでもお伝えした通り、ルカさんは魔界での話をするのがとても楽しいんだと思います。なので、それを否定するのはあまりよろしくはありませんね。」



「たしかに、それは真凛ちゃんに言われて気付きました。」



「価値観が一致することは恋愛において大切ですが、相手を尊重することの方がより大切だと私は思ってます。」



「歩み寄りが大切という事ですね。」



「その通りです。ですので、その魔界の話を灰田さんは寛大な心で聞いてあげる事が大事だと思います。」



「わかりました。」



「あとは…」



真凛ちゃんが次の指摘に入ろうとしたところで、注文していた飲み物が到着した。



モヒートってのを頼んだけど、なんか葉っぱが入ってるぞ。これは食べれるのか?



そんなくだらない事を考える僕を他所に、真凛ちゃんは乾杯!と言ってグラスを合わせてくる。



急いで僕はグラスを合わせてそれに応じる。



乾杯を済ませ、一口飲み物を飲むと真凛ちゃんは先程の話の続きを始める。



「先程のお話の続きですが、お話をお伺いした様子だとまだまだルカさんは灰田さんのことを仲の良いお友達としか思っていない様子ですね。これからは男を見せていかないと行けないかと思います。」



「というと…どのような作戦が良いですかね?」



作戦という言葉がハマったのか、真凛ちゃんは笑い出す。



「フフッ…作戦って…そんな大層なものはありませんよ。しかし灰田さんの様な方はグイグイ引っ張ってリードするというタイプではありませんよね。」



真凛ちゃんはオブラートに包まずに、直球を放り込んでくる。



僕なりではあるが、真凛ちゃんに対してはリード出来てるつもりだったのに…



「たしかに…そうかもしれないです。」



僕は素直に答える。



「灰田さんの良さはそこじゃなくて、優しさだと思うんです。ですから、ルカさんが困ってる事、悩んでる事を一緒になって相談に乗ってあげる事で頼り甲斐のある男って思われるんじゃないんですか?」



「確かにその方が僕にはあってるかもしれませんね。しかし…ルカちゃんの悩みかー…」



「悩みのない人なんていません。なのでその悩みはこちらから吐かせれば良いのです。」




お嬢様の雰囲気がある真凛ちゃんから「吐かせる」という言葉が出てきたのは中々の衝撃だった。



「うーん。何か悩みない?とか聞いてみるとかですかね?」



「いいえ、違います。いつもと様子が違うなって思った時とかに、「最近疲れてるみたいだけど、大丈夫?なにかあった?」とか聞いてあげるんです。」



続けて真凛ちゃんは言う。



「それでも答えてくれなそうなら、「何かあったら相談乗るから気軽に言ってね。」とか付け加えてあげれば、あとは勝手に向こうから吐いてくれます。」



「勉強になります。早速今日から実践してみます。」



こんな感じで真凛講師による恋愛講座初級編は続いた。



23時くらいまで僕らは二人で飲み続けた。



恋愛講座からは途中で話が脱線し、僕の大学での話や真凛ちゃんのこれまでの恋愛話などをして盛り上がった。



終電も近くなったので、お会計をし、店を出る。



会計は僕が払おうと思ったが、学生なんだから無理しないでと言われ、結局割り勘にしてもらった。



店を出て、駅へ向かう途中で、真凛ちゃんは本屋に立ち寄るのでこの辺で失礼します。と言って、別の方へと帰っていった。



この時間にやってる本屋なんてあるんだろうか…僕はそう思ったが、酔っているせいもあり深くは考えなかった。



ホームで電車を待っている間に、ルカちゃんに今日聞いた作戦を実行する。



今日は遅いからラインが返ってくるのは明日かな?



そう思いながら僕は電車に乗り込み家路へと向かった。



続く…

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